現在、政府の進める地方分権、三位一体改革などの嵐の中で、多くの中小自治体の合併が〔平成の大合併]と称して進められており、全国の市町村自治体の数も3000余から2000近くに減少しつつある中で、小さな市町村でも市民参画による、独自の市民自治をめざす自治体がいくつかあり、ユニークかつ斬新な改革と実践を行っている。
埼玉県志木市の穂坂邦夫市長の「国が変えないなら地方が変える」とする、真の地方自治を目指しての市独自の挑戦も、多くの注目を集めているひとつである。
私は、昨年8月に他の自治体議員たちとの交流研修合宿として、志木市の挑戦のリーダーである、穂坂市長の話をじっくり聴く機会を得たのである。
彼の市長としての改革、提案は数多くあり、市長の役割をシティマネージャーと位置付けて、市民はオーナーであると同時に行政サービスの受け手でもあると既定して、市民主役のまちづくりを多種多様に展開されているのである。
その中のお話で、私が一番印象に残り、また感心したことが3つほどある。それは直接,市政の政策とは関係ないと思われるが、彼の人間的素直なと言うか実直な発言の内容であったのである。
まず、彼は35年間県職員、市議会議員、県議会議員、議長を歴任したけれど、市民や県民のために役立てたと自信もって言えるようなことはしていないと、少し謙遜と言うか自嘲気味に話された後、「35年間の罪滅ぼし」に、市長に選任された4年間は精一杯市民に喜ばれ、役に立つ仕事をしたいとおっしゃったのである。
また、私は年間1億円以上の収入が既にあるので、市長職は金儲けや生活のために働くのではなく、たとえ報酬はなくても、市民に必要で私に出来ることなら、時間の許す限り何でも精一杯のお役に立ちたいともおっしゃったのである。
最後に、彼は1期の市長を務めあげれば続投はせずに引退して、大好きな南の島に既に土地を買ってあるので、奥さんと共に移り住んで、そこで暮らすのだとも付け加えられたのである。
つまり市長職という地方自治体の権力の頂点にたちながら、私利私欲ではなく一期4年の短期勝負で出来る限りの改革、挑戦を市民と共に全力投球して、そのあとは「発つ鳥後を濁さず」とでも言うのか、あっさり引退して後腐れなく、別天地に生活拠点は移して、従来の人間関係やネットワークに物言わせて、政治的影響力や権力、支配性を発揮するなどには全く関心がないのである。
全国には多くの改革、変革を掲げた知事、市町村長が誕生しているけれど、この志木市の穂坂市長のように、一期だけ、それまでの罪滅ぼしと称して改革提案と実践的施策の遂行を市民のコンセンサスを得て、やり通すタイプの首長は、他にはいないのではないかと私は思っている。
彼の具体的な改革や、提案し現在実施されている政策、条例には下記のようなものがあるので、参考までに列記したいと思う。
市民主役を実現するための「市政運営基本条例」
市民との対話を徹底する「情報公開と地域集会」
市民主権の制度の実現「公共事業市民選択権保有制度」
市民の関心深い食品の安全の担保〔食品表示ウォッチャー条例」
さらに強い規制を模索「自然再生条例」
学ぶ機会の保障「ホームスタディー制度」
実情に合った学級編成「25人程度学級」
市職員の削減と市民による行政パートナー制度
など、など多種多様な発想での新しい改革、先進的施策が行われているのである。
こんな市長を選んだ市民も偉いが、謙虚に権力の行使ではなく市民と共に市民の知恵と賛同を得て、エネルギッシュに次々と、改革提案を市民が見つめる俎板の鯉のように情報公開した上で、提案をすぐさま実行していく、市長としてのリーダーシップ、すなわちシティーマネージャーとしての才覚に共感のエールを贈ると共に、穂坂志木市長に続く、地方自治体の新しい発想の市長が誕生することを願わずにはいられないのである。