A Challenge To Fate

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【過去レビュー 2013年6月15日記】『.es/darkness』~「この音を聴け!」と叫ぶかの如き圧倒的な存在感

2021年05月21日 01時08分45秒 | 素晴らしき変態音楽


書きべき原稿の筆が進まないので、過去のレビューを読み返して初期衝動を取り戻そうとしている。本稿は筆者が初めてJazzTokyoへ寄稿したレビュー2本の内の1本である。

『.es/darkness』
text by 剛田武 Takeshi Goda

Nomart Editions 番号無し 2,100円(税込)
.es(ドットエス):
橋本孝之 Takayuki Hashimoto(sax,g,harmonica, 改造尺八他)
sara(p,perc.,dance 他)

1.darkness 26:30

Live at Gallery Nomart, Osaka, November 3rd, 2012

Photo: 稲垣元則 Motonori Inagaki
Producer: 林聡 Satoshi Hayashi

2009年に大阪の現代美術ギャラリー「ギャラリーノマル」をホームに結成された.es(ドットエス)は、橋本孝之(サックス、ギター、ハーモニカ、改造尺八等)とsara(ピアノ、パーカッション、ダンス他)の二人の即興演奏家によるコンテンポラリー・ミュージック・ユニット。 現代美術ディレクター林聡がコンセプトをプロデュースしている。.esとはスペインに於ける.comや.jpのようなインターネットの国別ドメインで、当初アヴァンギャルド・フラメンコをコンセプトに結成されたためだという。saraはフラメンコ・ダンサーでカホンやパリージョ(カスタネット)も演奏する。

ギャラリーノマルで美術や映像とのコラボレーションを重ね、2作の限定CDを制作するが、現在のスタイルを確立し、大阪以外でも知られることになったのは2011年10月リリースの3作目『オトデイロヲツクル』だった。美術家の中原浩大とのコラボレーションによる、ビーズを印刷した透明フィルム仕様カバーに、コンパクトディスク盤とWAV盤(24bit 48kHz)の2枚が収められたパッケージは紛れもないアート作品だった。しかしパッケージ以上に衝撃的だったのは収録された演奏だった。激しい情念が噴き出すサックスの歪んだ音色が、奔放なピアノのフレーズと重なり合い、交感する魂のせめぎ合いは、否応無しに阿部薫を彷彿させた。

小杉武久、阿部薫、高柳昌行、灰野敬二にインスピレーションを受け、コムデギャルソンの川久保玲の美意識に強く共感するという橋本は、.es結成以前には表立って演奏活動を行うことはなく、15年以上に亘って、発表するあてもなく、何かに取り憑かれたように練習を続けていたという。「あれが練習だったのか、どうかも、今ではもうちょっとわかりませんが...やらずにはおれなかったのです」と語る橋本の静かな情熱が、.esという場を得たことで一気に噴出したのだろう。21世紀も10年過ぎてこれほど生々しく自己主張する激しい音の渦が生まれるとは、まさに驚異的である。

さらにこのエモーションの塊のような演奏が、薄暗くタバコ臭いジャズクラブやライヴハウスではなく、現代美術ギャラリーから生まれてきたという事実が興味深い。かつて小杉武久率いるタージマハル旅行団が美術館や博物館で演奏したことを思わせるが、磯端伸一もカフェに併設されたギャラリーを拠点に活動することを考えると、21世紀に於いて芸術表現を創造する場が、従来の演奏の場ではなく、ギャラリーや展示場に移行したとは言えないだろうか。

『オトデイロヲツクル』以来、藤本由紀夫とのコラボ作『Resonance』(2012年2月)、今村源とのコラボ作にして初の全国リリースとなった『void』(2013年1月)に続きリリースされた最新作が本作である。昨年11月ギャラリーノマルで開催された「稲垣元則展darkness」でのライヴ・セッションを収録。アルバムを重ねる毎に進化する演奏がさらにスケールアップし、ギャラリー空間の深い自然リバーヴの中で繰り広げられる情念の即興演奏は、ジャズやロックや現代音楽といったジャンル分け不要の「この音を聴け!」と叫ぶかの如き圧倒的な存在感を発している。特に情動的なカホンの連打の上に引き裂くような絶叫を聴かせるアルトの破壊力は、使い古された表現だが文字通り「魂の叫び」に他ならない。

稲垣元則の作品とその世界観をできるだけ表現できるように、ジャケットと盤面の表現、質感、見え方にこだわり、テーマのdarkness、稲垣元則の写真作品、そして.esの音のコラボレーションが印象的に浮かび上がるように制作されたコンセプチュアルなアート作品である。

彼らは昨年から様々な音楽家とセッションする機会が増えている。美川俊治(非常階段、インキャパシタンツ)、鈴木創士&ユン・ツボタジ(EP-4)、Pika(元あふりらんぽ)などロック系から、豊住芳三郎、ジョン・ラッセル、ジアンニ・ジェビアなどジャズ・即興系まで幅広い。橋本自身はいわゆるジャズよりも、美川俊治、佐藤薫(EP-4)、藤本由紀夫(現代美術家)などロック・アート寄りのアーティストから音楽だけではなく、物事に対する考え方、見方も含めて影響を受けているという。そんな柔軟な姿勢が新世代の即興音楽の先駆けとなることだろう。

良き先輩である磯端伸一とは公私ともに交流があり、同じステージに立つこともある。静的な磯端と、アグレッシヴな.esとは一見対照的ではあるが、どちらも大阪に根付いた独創性溢れる音楽家であり、同じくアートや他ジャンルとのコラボレーションを積極的に行っている。大都市であるが故に飽和・自家中毒の危険のある東京に比べ、独自性を育むローカル・シーンからの新時代を担う個性派の登場を大いに歓迎したい。(2013年6月15日記:剛田武)
*初出:Jazz Tokyo #187 :2013年6月30日

暗闇に
書いた筆致の
自家中毒

同時に寄稿した1本のレビューはこちら
『磯端伸一 ソロ&デュオ with 大友良英/EXISTENCE イグジスタンス』
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