A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

『きゃりーぱみゅぱみゅは曼荼羅である 』~ 地下音楽愛好家から見たその魔力 (完全版)

2013年06月22日 00時07分31秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


"きゃりーぱみゅぱみゅは曼荼羅である"
~地下音楽愛好家から見たその魔力
(完全版)
剛田武




アングラ人生を眩しい光で救った女神
 “中学まではまともだった”とは永遠のバカ・ロック=Theピーズのデビュー曲「バカになったのに」の一節だが、私の場合は「暗くなったのに」とでも言えばいいだろうか。普通にテレビのアイドルやラジオ・ヒットを愛好していたのが、15歳でパンク衝動に侵され方向転換。サブカル音楽誌を読み耽り、自主盤・ヨーロッパ盤・海賊盤専門店に入り浸り吉祥寺マイナー周辺の現場に通い詰めた。90年代は渋谷系ブームに背を向け、裸のラリーズとPSF&アルケミー系アングラ・ロックとサイケのレア盤蒐集に耽溺、21世紀に入り生活に多少余裕ができると地下音楽の居心地の良い暗黒の淵に身を浸した。人並みに若い娘は好きだが、アイドルといえば戸川純を最後に関心はなかった。そんな偏屈なアングラ人生をアイドルの眩しい光で救ってくれた女神こそ、「あたしアイドルじゃねぇし」と宣言するきゃりーぱみゅぱみゅだった。

Theピーズ「バカになったのに」



 きゃりーの存在を知ったのは2011年夏の新聞記事だった。アイドル・ブームに便乗して奇天烈なのが登場したな、と思い気に留めなかったが、派手なファッションと発音しにくい名前は頭の片隅に残った。秋の夜長のYouTubeサーフィン中にふとその名前が頭に浮かんだ。きゃり何とか。検索して出た動画が「PONPONPON」。突然画面に溢れ出した極彩色の洪水に頭が歓喜の悲鳴を上げた。サイケな色彩地獄で天真爛漫にはしゃぐ姿は、カワイイけれどお色気ゼロ。キュートな美少女なのに劣情を刺激されない不思議。セックス・アピールを感じない女性アーティストはオノ・ヨーコとPHEWに継いで3人目である。

戸川純/オノ・ヨーコ/PHEW


「もしもし原宿」のジャケットは『クリムゾン・キングの宮殿』の顔面模写、弩派手なファッションはジェネシス時代のピーター・ゲイブリエルの仮装か、蔵六になりたくてペンキや汚物を被った初期非常階段と同じ変身願望、フルネームのきゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅはプレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(PFM)、バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ(バンコ)へのオマージュ、好んで衣装やグッズに用いる目玉の意匠はレジデンツの目玉親父、または13thフロア・エレヴェーターズの1stアルバム・ジャケットの引用。「きゃりー=プログレ&サイケ&アングラ」説の確信を得た。

「もしもし原宿」/クリムゾン・キングの宮殿


きゃりーぱみゅぱみゅ/ピーター・ゲイブリエル




きゃりーぱみゅぱみゅ/非常階段


プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ/バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソ
 

豆しぱみゅぱみゅ/レジデンツ/13thフロア・エレヴェーターズ


 デビュー・アルバム『ぱみゅぱみゅレボリューション』はタイトル通りのポップ革命宣言だった。中田ヤスタカのクラウト・ロック~ハウス~テクノ~トランス趣味をぎっしり詰め込んだマニアックなサウンドと、きゃりーの何気ない会話をサンプリングしたダダイスティックな歌詞に彩られたドープな世界が繰り広げられる。しかし、“つけまつけて つけまつけまつけまつける”、“うぇいうぇいPONPONPON うぇいうぇいPONうぇいPONPON”という無意味な文字列が循環するミニマリズムには難解さはない。お遊戯会ではしゃぐ幼児の姿が目に浮かぶ。きゃりーの曲は「踊れるリズムと童謡メロディー」というヒット曲の法則に忠実なのだ。

 湿った日本的情念が極力排除され、エクスタシーをキメたような底抜けに明るい歓喜の歌に身を任せて聴き進むと「おやすみ」のクールなアシッド・フォークに涙がこぼれそうになる。と思ったらラスト・ナンバーで「ちゃんちゃかちゃんちゃん」と感傷をぶち壊す急転直下の暴走で幕を閉じる。まさにポップ・アートの21世紀的展開。ノイズや変拍子こそないが聴き終わったあとに残される裏返った世界は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』、イエス『危機』、キング・クリムゾン『太陽と戦慄』、スロッビング・グリッスル『20ジャズ・ファンク・グレイツ』に通じるカタルシスがある。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ/イエス『危機』


キング・クリムゾン『太陽と戦慄』/スロッビング・グリッスル『20ジャズ・ファンク・グレイツ』


 喩えれば「中田=アンディ・ウォーホール/きゃりー=ニコ」、「中田=セルジュ・ゲンズブール/きゃりー=ジェーン・バーキン」、「中田=寺山修司/きゃりー=浅川マキ」。いずれも最初はパトロンの力を借りたがすぐに自らの魅力で独自の世界を切り開いたという点がきゃりーにも当てはまる。

アンディ・ウォーホール&ニコ/セルジュ・ゲンズブール&ジェーン・バーキン/浅川マキ


魂を抜き去られてしまったのである
 7月渋谷AXでライヴ初参戦。開演まで延々とリピートされる電子オルゴールのSEはピンク・フロイドの『鬱』ツアーでの鳥のさえずりや、裸のラリーズの無音ストロボ点滅を彷彿させた。「私のライヴは遊園地」と語るきゃりーは角の生えた犬という古代神殿や中世寺院にこそ相応しいガーゴイルのオブジェと、60年代サイケデリック・ライトショーを数百倍に拡張したビデオ・ドラッグをバックに、生け贄の儀式のように一心不乱に歌い踊る。前夜かりんとうを銜えて綱渡りをして、堕ちてはまた綱渡りを繰り返す、という悪夢を見たと語る。まさに『ドグラマグラ』か、はたまた「再び赤い悪夢」か? 数日後にパリ公演を控えノリにノッたステージだが、合法ドラッグとしか思えぬ多幸感の奔流に幻惑され放っしの恐怖の頭脳改革ショーだった。

ピンク・フロイド/裸のラリーズ


夢野久作『ドグラマグラ』


キング・クリムゾン「再び赤い悪夢」



 10月の3rdシングル「ファッションモンスター」は人類普遍の命題に対するメッセージだった。キーワードは「FREE=自由」。「だれかのルール」=“他人が決めた世間の常識”だけではなく、「せまいこころの檻」=“自分の心の牢獄”からも自由になりたい、と歌っていることに注目したい。自由を求めることは芸術の根本理念である。ローリング・ストーンズ「アイム・フリー」、ザ・フー「僕は自由だ」、モンキーズ「自由になりたい」、ビートルズ「フリー・アズ・ア・バード」、ボブ・ディラン「自由の鐘」、フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション『アブソリュートリー・フリー』、ディーヴォ「自由という名の欲望」、ザ・タイガース『自由と憧れと友情』、PYG「自由に歩いて愛して」など「自由」を謳った曲が如何に多いことか。

ローリング・ストーンズ「アイム・フリー」



ザ・フー「僕は自由だ」



モンキーズ「自由になりたい」



ビートルズ「フリー・アズ・ア・バード」



クイーン「自由への旅立ち」



スティング「セット・ゼム・フリー」



マザーズ・オブ・インヴェンション『アブソリュートリー・フリー』



ディーヴォ「自由という名の欲望」



PYG「自由に歩いて愛して」



 ではきゃりーの言う「自由」とは何か。それはカップリング曲「100%のじぶんに」に明らかである。自我の確立、すなわち精神分析家エリクソンが提唱した「Self Identity=自我同一性」の概念。青春期に自我同一性が確立されないと、同一性拡散の危機に陥り、対人不安・非行・アパシー・精神病・神経症を発症することもある。30余年前、灰野敬二が『わたしだけ?』で“うまくできない うまくできない うまくできない 自分のまねが”“つきぬけても つきぬけても 又同じ私”と漆黒の闇に囁き呟き呪い叫んだ存在論的命題を、きゃりーは誰でも口ずさめるキャンディ・ポップのオブラードに包んで万人に提示しているのだ。大衆性と前衛性を融合したきゃりー革命が、さらに人間の本質に踏み込んで辿り着いた解放宣言がこの曲に他ならない。

灰野敬二『わたしだけ?』
 

灰野敬二「うまくできない」



 11月の武道館公演できゃりーの真の姿が露わになった。「武道館で飛び出す絵本」をテーマに様々な演出で展開した脳内アトラクションで満員の観衆を魅了。その様子に童話「ハーメルンの笛吹き男」を思い出した。約束を守らない村人に怒った男が道化姿で笛を吹いて町中の子供たちを踊らせて連れ去ってしまったという、実際に起こった失踪事件に基づく寓話である。笛吹き娘のきゃりーに文字通り踊らされた8000人の観衆は魂を抜き去られてしまったのである。隣の席の真面目そうな制服・メガネの女子高生は、声援を送ることもなくあたかも人形のように黙々と星型ライトを振りながら羨望の目でステージに見入っていた。これはギリシャ神話の「ゴルゴン」である。見事な金髪に嫉妬した女神に髪の毛を生きている蛇にされてしまったゴルゴンは、姿を見たものを石に変えてしまうという恐ろしいモンスターになり、英雄ペルセウスにより首を刎ねられ、その首は魔よけとして教会や礼拝堂の礎石を飾ることになった。すなわち人に忌み嫌われるアヴァンギャルドな化け物が、装飾やお守りとして大衆化した訳である。きゃりーとは謎の失踪事件と古代神話から生まれた「異形のシンボル」だったのである。

きゃりーぱみゅぱみゅ/ハーメルンの笛吹き男


きゃりーぱみゅぱみゅ/ゴルゴン


本格海外進出への決意が滲む
 2013年1月発売の4thシングルのリード曲はアニメ「クレヨンしんちゃん」の主題歌「キミに100パーセント」。きゃりーの100%へのこだわりの秘密は?
 子供向けの100%ソングといえばアニメ「忍たま乱太郎」主題歌の光GENJI「勇気100%」。忍者という裏社会を描いたアニメとローラースケートという特殊技能に長けた伝説のアイドルが邂逅したカルト・ヒット。オルタナの帝王ソニック・ユースにはその名もズバリ「100%」という曲がある。当時このNY地下ロックのシンボルは世界の前衛音楽の頂点にあった。オタク文化とロックの親和性を象徴するのがマシュー・スウィート。パワー・ポップの名盤『100% Fun』のブックレットには好きなマンガBEST10が掲載され、腕には「うる星やつら」のラムちゃんの刺青がある。きゃりーがこだわる100%という言葉には、カルトと前衛とオタクが潜んでいるのである。

光GENJI「勇気100%」



【追記】100%ソングの記事を書いたのは2013年1月13日。その時点では「にんじゃりばんばん」(2013.3.20発売)の情報はありませんでした。偶然のシンクロに驚きです。詳述はしませんが、他にもいくつかシンクロ現象がありました。

ソニック・ユース「100%」



マシュー・スウィート『100% fun』より「シック・オブ・マイセルフ」



 2月から世界征服ツアーをスタート。デビューから1年半で海外進出することに対しては、周りのオトナたちから異論が寄せられたらしいが、敢えてワールド・ツアーを実行した背景には、“誰かが決めたルールとは違うだけ”(「でもでもまだまだ」)、“だれかの ルールに しばられたくないの”(「ファッションモンスター」)、“常識を変えたら 驚きが日常に”(「にんじゃりばんばん」)、“point of view 変えてみて”(「Point of view」)と常に「世間のジョーシキ」への疑問を歌い、100%の自分自身でいることの大切さを実践してきたきゃりーの信念が貫かれている。実際に現地に行くまで何が起っているのか判らず不安だった、ときゃりーは語るが、その気持ちは映画『スパイナル・タップ』で本国で落ち目になったロック・バンドが遠い極東で熱狂的に迎えられたエピソードに近い感覚かもしれない。
 またYouTubeの二次元アイドルが、三次元の生身の存在としてステージに現れた時の海外のファンの驚きと興奮は、クラフトワークの "3-D CONCERTS 1 2 3 4 5 6 7 8" の飛び出す立体映像以上のものがあったに違いない。

映画『スパイナル・タップ』(1984)予告編



クラフトワーク "3-D CONCERTS 1 2 3 4 5 6 7 8"より「放射能」



 5月23日「恋文の日」に愛の告白のように不意打ち発表された2ndアルバム『なんだこれくしょん』。冒頭のタイトル曲のお囃子リズムこそ、大衆を踊らせるきゃりーらしい幕開け。ちりばめられた和風テイストには本格海外進出への決意が滲む。肝はアルバムの真ん中、レコードならA面ラストに配された「み」であろう。マ行は50音唯一の両唇鼻音であり、中でも「みゅ」は日本語で用いられる例はほとんどない外来語専用の音である。名前に「みゅ」を含有するきゃりーにとってグローバル化は必然だった。「きゃりーの素」と言える「み」は子供でも外国人でも容易に発音可能であり、ビートルズの「レボリューション9」の“ナンバー・ナイン”のように“みみみ”と呪文のように唱和することで聴き手をトランス状態にして、新たな精神レベルに導こうとしているのだ。
 名前とは裏腹にロックの最前衛を提示したポップ・グループが衝撃的デビュー・アルバム『Y(最後の警告)』に続き、2ndアルバム『ハウ・マッチ・ロンガー』で更なる高みに登ったように、きゃりーがウルトラCの跳躍を見せた。ポップ・グループのように分裂したくてもきゃりーは100%の自分ひとりしかいない。

ザ・ビートルズ「レボリューション9」



ザ・ポップ・グループ「人類回帰」



 仏教で最高の悟りの境地を表す曼荼羅は、ユングによれば、中心・全体・調和を意味する超越的自己の象徴とされる。70年代を象徴する歌姫、山口百恵は菩薩だったが、100%自己実現を標榜するテン年代カルチャーのシンボルであるきゃりーは現代の曼荼羅に間違いない。
 きゃりーぱみゅぱみゅというアイドルの免罪符を銜えて綱渡りをして、救いの曙光が見えかけたところで墜落し、また最初からやり直し。運命の女神に魅惑された病める魂の彷徨は当分終わりそうもない。

菩薩/曼荼羅


マンダラバンド「曼荼羅組曲」



アーバンギャルド「病めるアイドル」



★筆者がきゃりーぱみゅぱみゅと並ぶ"現代日本のポップアイコン"と断言するアーバンギャルドについてはコチラをご覧ください。


【参考資料】
【MASH UP】非常階段 vs きゃりーぱみゅぱみゅ

【商品検索】
きゃりー階段

【板野友美】「1%」



                                注:一部の写真は加工してあります。ご了承ください。

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