過日の話。 軽い食事をしてから、劇場に入ろうということで、道頓堀の名店、
純喫茶「アメリカン」へ。 昭和21年の創業。
料理研究家の小林カツ代さんは、ここを思い出の店とあげていらした。
ここには時代錯誤と切り捨てられないだけの、うまい物がたくさんある。
すぐそこの道頓堀がいかに姿を変えようとも、ここは最低20年は変わりはしない。
そのことが信用となり、逆にアダルトな客をつかんでいる。
そう、時代に敏感とかいって、早いばかりが食いもん屋ぢゃないよ。
ホットサンド。スパイシーなハンバーグがサンドされる。 ようがすな。
そして、イタリアンスパゲッティ。 ホットケーキしかり。
こういう定番ものがもの凄くいい。
ちょいと色は薄いが、なにケチャップをケチってる訳ではないのだ。
うん、まだ3人前は食えるな。
コーヒーは昔大阪風のうんとローストの強いタイプ。
なんか食った時には、こういう濃い味でスキッと洗い流す。
道頓堀の喧騒の中を歩いてすぐ。
松竹座へ。
2月花形歌舞伎を見に。 染五郎・獅童・愛之助がすこぶるいいらしいので。
歌舞伎ファンでもなんでもいいが、名人上手は見ておきなさいと師匠連中に言われ、
尾上松緑の勧進帳も見ている。
さて花形歌舞伎。本公演と比べ、若手のアイデアが光る。
愛之助がいがみの権太を演じた、「義経千本桜 二段目 すしや」。
ひとの言うことを聞かぬガキのことを大阪でゴンタと呼ぶのは、この権太から来ている。
3階の上手席を選んだのが運のツキ。
客席を見降ろすと、目がクラクラしてしょうがなかった。
芝居見巧者はだいたい3階に座るもので、ここから良い間で
「高麗屋! 松嶋屋!」などと声がとぶ。
吉本系の放送作家とばったり会った。
舞台をこの角度で見て、オペラグラス覗いてご覧なさいな。
首はおかしくなるし、なんだか目が右の方に寄って、胸が悪くなった。
やはり、席は多少悪くても、芝居は正面で見た方がよろしかろう。
あ~、気持ち悪かった。
ということで、劇場のおねえさんにお願いして、正面に移動させてもらった。
幕間(まくあいと読む)で、さっきのアメリカンで買ってきた、サンドイッチをひらく。
50年代を思わせるようなポップな箱である。
ちょいと歪んでしまったのは、いがみの権太のタタリか。
関西人は玉子サンドには異状な思い入れがあり、なぜか茹で卵をつぶし、
マヨネーズなどで合えるフィリングは余り人気なく、厚焼き玉子の方が
圧倒的に人気なのである。
玉子を食べるというダイナミズムはもちろん、こちらに軍配があがる。
ま、松竹座の客席で何してんだの声もあろうが。
後半の「研辰の討たれ」がめちゃくちゃ面白かった。
染五郎とはあんなに身体の動く役者だったのか。軽妙である。
エノケンか野田秀樹かと思った。 仇討に来る兄弟相手に、劇場中も逃げ回る。
スラップスティック喜劇さながらで、セリフも歌舞伎調ではなく、現代語でやる。
いや見事な体技を見せてもらい、惜しみない拍手となった。
花形歌舞伎、実験的なこともやるらしいので、マークしておくとよろしかろう。
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