道頓堀通いの日々が続くと、さあ、お昼は何処で食べるかということになる。
先にもふれたように、昼飯時間は短い。 選択肢はそうあるぢゃなし。
ってとこで思い出したのは、御堂筋を西へ渡ってすぐの「大黒」。
この佇まいがいいでしょう。
東京の下町のようだが、どこかにはんなりとした上方らしさが漂う。
かやくごはん一本で百年以上ののれん。
昔は、かやくごはんの店がたくさんあったらしい。
織田作の「夫婦善哉」に出てくる、かやくごはんと粕汁の「だるまや」(本当はだるま)や、
相合橋筋にある「福家」なんてのも、かやくごはん屋だったと聞く。
10人も座るといっぱいになる店内。
ここは池波正太郎が書いているが、辰己柳太郎や島田正吾、新国劇の連中も
通ったという。辰己は豪快なああいうキャラだが下戸につき、ごはんものとなる。
織田作も来てるに違いないが、「だるま」派だったのだろう。
だるまではおかずの棚をガラガラと開けて、自分で取ってきて一杯やったもんだ。
アタシの学生時代はまだあったのだ。
かやくめしは豌豆が載ってたような記憶、嫌いぢゃないがアタシャ大黒派。
もちろん、ここでも一杯。
おかずを見つくろって…と
あとから来た客たちは、さわらだ、ぶりだ、しまあじだと魚を注文して、
かやくごはん喰ってやがんの。 おまえら金持ちかえ。
昔はそんなもの頼むのはお大尽と決まっていた。
きんぴらとぬたで燗酒。
眠くなるといけないので、これっきり。
いいかえ、かやくごはんてなものは、おかずいらずのものなんだ。
おかず喰いたきゃ、白飯出す店に行けばいい。
第一、かやくごはんのおかずはみんな、ちゃ~んとご飯の中に入ってる。
ごぼう、こんにゃく、油揚げ…てなもんや。
芸者衆が食べに来るために、大口開けなくていいように具も米粒と合うように
細かく刻んである。
ご丁寧に香りのいい海苔までかかってる。
これに熱い汁でも付ければ、何をかいわんや。
白玉 (白味噌、卵入り)
ここだと大阪風に白味噌を頼みたくなる。
中に半熟のポーチドエッグが入る。
途中で箸でつついて、ポワンと卵黄の色が上がって来るのがたまらない。
しばらく来れないだろうから、かやくごはん大。 男らしい。
なんやかんやで魚頼む方が安い、てなことになるが、そこはこだわりっちうやつ。
そうそう、変えるわけにはいかない。
ああ、めんどくさいオッサンやがな…。