近藤史恵著「タルト・タタンの夢」創元推理文庫
ちょっと洒落た小品集である。総勢4名で運営する小さなフランス料理店を舞台に繰り広げられるちょっとした謎解きドラマ。
或る時は料理が主役、ある時は脇役で登場する。作家では池波正太郎も、高田郁も、料理描写が優れている。この著者も一度食べたくなるような料理を描く。物書きには必要な才能なのだろうか。
私はフランス料理はあんまり好きではないのだが、ここに出てくる料理なら一度口にしたい。名古屋のシェ・トトに似ているように思う。
小説の作法で言えば、食欲、性欲、名誉欲、物欲などの諸欲につき動かせられている人間の性を突き詰め、描くのが本来の目的ではないのか。
それはさておき、料理名や材質調理方法などが謎解きの最後の比喩に使われるのもちょっと粋である。この作者は大藪春彦賞などを受賞しているそうだが、この小品はその影はない。フランス語の料理用語が少々難解だが、それさえ除けば小粋な小説と言っていい。お薦めである。