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バイオサスペンス

2015-06-27 06:30:42 | 


安生 正「生存者ゼロ」宝島社文庫2014年刊

この作者は初めてだが、非常に面白かった。一種のパニック小説と言っていいのだが、理科系の経歴(京都大学院工学研究科卒)からしても、緻密に原因の解明を図っている。小説としてバランスのとれたバイオサスペンスである。

北海道根室沖の石油堀削基地で職員が全員謎の死をとげる。自衛官3等陸佐の主人公廻田と感染症学者が被害拡大を命ぜられる。ここから小説が始まるのだが、この原因の解明、阻止のための学者間の争い、政府上層部の責任逃れ、など見事に類型化していて説得力がある。

エンターテイメントとしても、女性昆虫学者が登場し、恨みを持ちつつ活躍する有り様が興味を引っ張る。ちょっと自衛隊員の内部描写ばかりが綺麗に描かれ過ぎではないかというきらいはあるが、人間模様は理科系とは思えないほど鮮やかである。

この本も畏友が貸してくれた膨大な蔵書の中の一冊だが、残り40冊位になってきて、前に紹介した「タルト・タタンの夢」同様こんな面白いものが隠れているとは思わなかった。
ちなみにこの作品は「このミステリーがすごい!」大賞の2012年作品で、原題は「下弦の刻印」である。