遅いことは猫でもやる

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富士見高原療養所

2012-08-31 18:48:16 | 雑感


富士見高原療養所といっても病気の話ではない。歴史上の建物のお話。

約85年前(大正15年)開設されたこの療養所は、主に結核の治療施設として存在感を示していた。

久米正雄、堀辰雄、藤沢恒夫、竹下夢二などの文人・芸術家、呉清源などがここで治療したことで有名である。
設立当時、亡国病として猛威をふるった結核は治療薬がなく、若い青年の命を奪い、富国強兵を旗印に国づくりに邁進する国策の支障となっていた。

この療養所は上流階級の人の治療にあたったらしく、初代院長は慶応大学から赴任している。
また付き添いの人に加えて、お手伝いさん同伴で入所してくる人もいたという。治療の一部ともなっている食事は豪華なもので、看護婦が羨むほどであったらしい。

設立からの歴史をとどめた、往時の施設の一部に資料が掲示され資料館として保存されていたが、この度廃止されることとなり、残念ながら85年余に及ぶ歴史に幕を下ろす事になった。

それに伴い一般展示が今週いっぱい行われたので、せっかくなので見に行ってきたのである。
松林に囲まれた立派な病院の一隅に、木造2階建ての建物が残されていた。

空気清澄、湿気の少ないこの地が療養に適していたのか、ここでの回復率は、症状軽減者を含めると85%近くに上り、安静、日光浴、栄養補給を軸とする療養が効果をあげていたと推測される。
ギシギシと鳴る床を踏みしめながら、各々の文人たちは窓の外の松林を見つめて、何を想っていたのだろうか。当時はもっと時間がゆっくりと流れていたのだろう。

ここは今では高原病院として結核のみならず、老人医療、リハビリテーション、保育園まで併設し、医師20数名を擁する総合病院として経営されている。

この治療所の初代正木俊二院長は、俳句を嗜む文人で句集も残している。多くの文人が集まってきたのもそのせいかもしれない。
またこの病院を舞台にした映画も沢山撮影され、「月よりの使者」(根上淳、入江たか子)「風立ちぬ」(山口百恵、三浦友和)や、題名は忘れたが、お笑い芸人の南原清隆など出演の映画が撮られている。こんな山奥が恋愛映画の舞台となるのはちょっと不思議な気がするが、日本映画大学校長の佐藤忠男氏は「富士見高原病院は、日本の恋愛映画の原点になった場所です」と言っておられる。

こういう資料館が解体されるのはちょっと残念だが、時代の流れだからやむをえないだろう。

二階への木製階段(内部は残念ながら撮影禁止)

八子ヶ峰トレッキング

2012-08-28 17:00:26 | 行ってきました

スタート地点の駐車場の案内標識。さすが東急さん。よく整備されている。

林の中の道。木漏れ陽が好ましい。

草原の中の標識(女神茶屋への分岐点)

八ヶ岳連峰の南端。茅野平野?盆地?へと続く。

好天が続き、ちょっとウズウズしてきたので、手頃な所=東急リゾートのトレッキングコースへ出かけた。1,869mの八子ヶ峰をめぐる、尾根道歩きの2時間半ほど(休憩を入れても3時間)の軽い足慣らしのコースだ。準備や問い合わせなどをしていて、歩き始めたのは11時30分ちかく。コース入口の指定駐車場に車を置き(先日の大雨の影響で修復工事の大型ユンボが動いていた)、舗装道路を歩いて東側入口から入る。石と根っ子の山道を喘ぎながら40分程登ると落葉松林と熊笹の尾根道に出る。緩やかな登り降りの道が続き、林が切れてくると彼方に赤い屋根の小屋が見えてくる。ヒュッテ・アルビレオだ。登り始めてから1時間半ほどで到着。目の前には笹の丘がが広がり、振り向けば蓼科山に雲がかかって聳えている。蓼科湖から茅野市街へ続く平野が一望のもとだ。小屋が必要な地形とも距離とも思えないが、何やらホッとする佇まいだ。デッキで声高に小屋の主人らしき人と喋っている男性が居る。


小屋の前の標識

ヒュッテ・アルビレオと雲をかぶる蓼科山

我々もここで一休み。缶ビール(400円)を2缶頼む。主人が「一缶でもいいですよ」とぼそっと呟く。「いえいえ二人が飲みますので」と私。デッキで待つ間、件の声の大きい男性が話しかけてくる。50歳ころ突然耳に変調をきたして、今は補聴器を使用していること、名古屋の眼科医院で白内障のレーザー治療を20万かけてやったこと、子供は山行に同行してくれないので、一人でバイクに乗って出かけてくること、自分は大手のメーカーに勤めているが、高卒なので大卒と差を付けられている。子供にはそうさせたくないので勉強しろと言っている、などとよく話が弾む。
アルビレオというのは白鳥座の頭に光る一等星の名前だ。


西峰山頂の標識

ビールと持参のおにぎりで手早く昼食を済ませ、男性に別れを告げて小屋を後にする。5人くらいの中年男女パーテイが到着し、お茶を頼んでいた。小屋の裏か、前かはっきりせぬが、八子ヶ峰東峰(1,869m)山頂である。そこからトレッキングコースは、広い尾根を通り、先へ伸びる。快適な尾根道を少し下り、リフトの大きな輪っぱが備えてある、白樺湖からのスキーリフトの下り口の横が、八子ヶ峰西峰(1,833m)山頂。後は下る一方。エゾカワラナデシコ、のピンクやトリカブトの紫、マツムシソウの黄色など、まだ花が咲いていた。小屋から一時間ほどで、工事中のだった、駐車場に到着。人のよさそうなおじさんたちと挨拶を交わして、車に乗り込んだ。スタートからきっちり3時間。疲れもそんなに出ず、天候にも恵まれ快適なトレッキングであった。


トリカブトの紫の花(根は猛毒)


蓼科山に別れを告げ、このトレッキングは終わりに近づく。

さぶ

2012-08-24 11:17:28 | ミササガ市(カナダ)訪問


山本周五郎「さぶ」新潮文庫

傑作である。周五郎作品の特徴、ちょっと癖のある登場人物が人生を全うしてゆく姿を描く。

この作品は題名の「さぶ」に焦点を当てるというより、相棒の栄二を描きながらさぶの生き方を浮き上がらせるという手法を使っている。本来著者が描かない、男前で、賢く,喧嘩にも強いという人物が、無実の罪に問われ、人足寄場に放り込まれてて色々な経験をする中で、視野が広がり、寛容になってゆくという過程を描いている。登場人物の性格、行動描写が的確で流石と思わせる。

人間の弱さと強さを描き分け、地道に努力し続ける事が最終的には実を結ぶ、という先に読んだ「ながい坂」と同じ生き方を主張している。勿論単純なお説教ではなく、色々な癖のある登場人物が交差してストーリーを盛り上げる。この物語は何故かリズムの良さを感じさせ、ワクワクさせるような筋の運びである。

不器用な人間が、迷うことなく己の持ち分を全うしてゆくことを、応援してくれるような、著者の暖かさを感じた。

著者の山本周五郎自身が狷介な性格だ、と巻末の解説に記されているが、登場人物の的確な人物描写はそんな性格から生み出されたのであろうか。

お薦めの一冊である。

最高の花火、最高の人出

2012-08-17 19:53:41 | 行ってきました

キス・オブ・ファイアー(半分)

15日のお盆の中日は恒例の諏訪湖祭湖上花火大会の日である。今年も混雑を覚悟で湖畔に向かった。

三時間も前なのに、茅野市役所の駐車場は満車、苦労して駐車場を探して、上諏訪駅へ。臨時列車に乗り込む。
案外若い人の浴衣姿が多い。昨年よりは混みあう事もなく、それでも肩が触れ合うほどの込み具合で、駅へ着く。

そこはもう混雑の始まり。駅のホームも、駅前広場も、商店街も人人人。湖畔に向かう道路も人で一杯だ。


いよいよ開始


予め予約をしておいた、有料桟敷席に無事入場。茅野で降っていた雨も、すっかり上がり、雲こそ取れぬが、湖畔は次第に暮れてゆく。途中買ってきた缶ビールをやりながら、ゆったりと日が暮れるのを待つ。7時きっかりに実行委員長の挨拶が始まり(これが山にこだましてほとんど聞き取れない)いよいよ打ち上げ開始。惜しげも無く、尺玉が打ち上げられ、音と煙と光が織りなすファンタジーが続く。目の上を覆うがごとく広がる大輪の傘は圧巻である。流れてくる煙、腹に響く爆発音は、臨場しているものだけが味わえる迫力だ。


湖上大スターマイン

ナイアガラ瀑布

2km続く大瀑布

豪華な打ち上げに酔っているうちにあっという間に2時間はすぎ、フィナーレを迎えた。最後は水上大スターマイン「キス・オブ/ファイアー」仕掛け「大ナイアガラ瀑布」前者は湖上で2隻のボートの上で、花火を打ち、半円形の姿が映し出されるファンタジックなもの。後者は長さ2kmにわたる滝状の仕掛け花火だ。この日は風が弱く、煙がなかなか捌けず、キスオブファイアーはけむりにじゃまされて、半隠れになった。

この花火大会は昭和24年に戦後の復興を期して始められたもので、現在は約万発が打ち上げられ、観客50万人を数えると言われ、国内最大級の大会である。、

それだけに帰りの混雑はものすごく、これも日本一だ。終わるやいなや脱兎のごとく駅に向かう。人ごみをかき分けかき分けほとんど駆け足で急ぐ。臨時列車が次々と増発されるが、駅前の広場は十重二十重の人並みで埋まり、行きの比ではない。列車のホームは人で埋まり、入場は勿論、制限され,一電車分しか入場できない。それでも我々は2回の制限でホームへ。東京の通勤列車並に詰め込んで発車。茅野についたのは終了後一時間経った頃、昨年よりも50分以上も早い。駆け足が効いた。

往きと帰りの混雑もイベントの一つだと考えれば、本日は5時間以上にわたる大イベントであった。


まだ陽も高いのにこの混雑

鈍色に染まる湖面

皆ゆったりと日が暮れるのを待つ

湖畔に軒を並べる露店

古典の仲間入り?

2012-08-13 12:42:20 | 
深川安楽亭 山本周五郎 新潮文庫

涼しくて静かな山の家にいると、読書の時間が楽しい。オリンピック観戦で時間が取られたが、それでもちょこちょこは本を読んだ。その中の一冊。
このところ山本周五郎にハマっている。前の「人情裏長屋でもそうだったが、比較的底辺にある人たち(本書では珍しく藩主も登場するが)で,一癖有りそうな人というか、偏屈な人だが、生き方に大事な姿勢を持った人が、色々登場する。その人達が少し迷いながらも、自分の信じる生き方を貫いてゆく、というのがなんとも言えぬ、小気味よさを感じさせる描写だ。

本書は短篇集であるが、そこに描かれている人たちの生き方にはそれぞれ、哲学がある。拝金主義に流されている傾向にある、現代に対する警告かと思っていたら、何とこの中には戦前の作品もあるとのことだ。若干「滅私奉公」の強調があるが、それでも説得力を失わない、オーソドックスな生き方を提示している。新しい古典といってもいいほどだ。

時代小説はこの他に藤沢周平、池波正太郎、佐伯泰英などを読んでいるが、それぞれに個性があり、持ち味が違い面白い。中でも、この著者は人の生き方について、考えさせられる物が多い。