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マーガレット・ヘファーナン: 「意図的な無視」の危険性  Heffernan: The dangers of "willful blindness"

2013-09-28 | アスベスト

マーガレット・ヘファーナン: 「意図的な無視」の危険性

TEDxDanubia 2013、字幕 Kazunori Akashi、字幕校正 Emi Kamiya

動画はこちら⇒http://www.ted.com/talks/margaret_heffernan_the_dangers_of_willful_blindness.html  より

Margaret Heffernan: The dangers of "willful blindness"  14:38 Posted: Aug 2013

【字幕 文字おこし】 

アメリカ北西部、カナダ国境のすぐ近くにモンタナ州リビーという小さな町があります。松林と湖、そして美しい野生動物と天まで届くような巨大な木々に囲まれています。こんな環境に囲まれた小さな町リビーを訪れたのですが、なんだか寂しいところで孤島のようでした。リビーにはゲイラ・ベネフィールドという個性的な女性がいます。

ロシア系の彼女は人生の殆どをこの町で暮らしてきましたが、常に自分は人と違うと感じていました。学生時代、女子で機械製図を選択したのは彼女だけだったと私に話してくれました。その後、ゲイラは就職し、家を一軒ずつ回ってガスや電気の計量メーターを検針する仕事を始めました。昼の仕事でしたが、彼女が気になったのは昼間なのに男たちが家にいることでした。

それも40~50歳代の中年の人たちで、かなりの人たちが酸素ボンベをつけていました。彼女は何か変だと思いました。数年後ゲイラの父親が59才で亡くなりました。年金の受け取りが始まるわずか5日前のことでした。鉱夫だったので、きつい仕事の結果だとゲイラは思いました。ところがその数年後、今度は母親が亡くなります。母の死は一層奇妙に思えました。

なぜなら母親の一族は、永久に生きると思うほど長生きの家系だったのです。実際ゲイラの叔父さんは今も元気でワルツを習っています。自分の母親が若くして亡くなる理由が見つかりませんでした。その死は「異常」だったのでゲイラは悩んだのです。

考えるうちに、いろいろ思い出しました。例えばこんなことがありました。母が足を骨折して病院に行ったとき、レントゲン写真を何枚も撮られました。2枚の足の写真は当然としても胸部の写真が6枚もあるのは不可解でした。彼女は自分と両親の人生のあらゆる瞬間を思い出しながら考えて、自分が目にしたものを理解しようとしました。

自分の町のことを考えました。町にはバーミキュライトの鉱山がありました。バーミキュライトを土壌改良土として使うと植物はより早く大きく成長します。屋根裏の断熱にも使われました。大量に屋根裏に入れると長いモンタナの冬でも暖かく、バーミキュライトは公園にもフットボール場にも、スケートリンクにもありました。

ゲイラはこの問題に取り組んで初めてバーミキュライトに非常に有害なアスベストが含まれていたことを知りました。謎を解いた彼女は皆に伝えようとしました。何が起きていたのか、そして彼女の両親や酸素ボンベをつけて昼間も家にいる人々がどんな仕打ちにあってきたか。ところが彼女は驚愕します。

皆が事実を知れば何かが始まると思っていたのに、誰も知りたがらなかったのです。この話を近所の人や友人やコミュニティーの皆に伝えようとすればするほど嫌がられるようになり、とうとう住民の一部がステッカーを作って誇らしげに車に貼るほどでした。こんなスッテカーです。

「故郷はモンタナ州リビー。でもアスベスト症にはかかってない」

それでもゲイラは諦めず調査を続けました。インターネットの普及が調査を後押ししました。できるだけ誰とでも話し、論争を重ねるうちに、とうとう幸運をつかみます。ある研究者が鉱山史の調査で町を訪れることを知ったのです。彼女はその人に話をしました。最初は信じてもらえませんでしたが、その研究者がシアトルに戻って調査する過程で話が本当だとわかったのです。こうして仲間ができました。

それでも住民は知ろうとしません。彼らの言い分はこうです。

「そんなに危険だったら誰かが教えてくれるはずだ」「それが皆が死んでいく本当の理由だとしたら医者が警告したはずだ」

過酷な労働に慣れた男たちはこう言いました。

「犠牲者になんて絶対になりたくない、でもどんな産業にも事故はつきものさ」

それでもゲイラはあきらめず、とうとう町に連邦政府機関を呼んで、住民1万5千人の健康診断にこぎつけたのです。それでわかったことは、この町の死亡率がアメリカ全体の死亡率の80倍にも上ることでした。2002年のことでした。でもその時でさえ、進んで警告を発する人は誰一人いませんでした。

「あなたの孫が遊んでいる公園を調べてごらん、バーミキュライトだらけだよ」などと言う人はいませんでした。これは無知のせいではありません。

意図的な無視によるものです。「意図的な無視」とは法律用語で、知り得るだけでなく、知るべき情報なのに、知らずに済まそうとする場合、法律上は意図的な無視とみなされます。知らずにいることを自分から選択したのです。最近、意図的な無視の例が身の回りにたくさん見られます。

お金のない人々に住宅ローンを売りつける人が何千人もいるのは、銀行による意図的な無視です。金利が操作されていると誰もが知りながら、わざと放置していたのも銀行の意図的な無視です。カトリック教会内の児童虐待が何十年にも渡り、放置されていたのも意図的な無視です。

意図的な無視はイラク戦争の準備段階でも見られました。このように意図的な無視は大規模に存在する一方、ごく小規模のものが、家族や家庭やコミュニティーまたは組織や団体にも見られます。企業の意図的な無視を調査するときには、こんな質問をします。

「職場に社員が指摘するのを恐るような問題がありますか?」

研究者がアメリカの企業を対象に調査したところ、こうした質問に85%の人が「はい」と答えました。85%もの人が問題の存在を知りながら何も言わないのです。私がヨーロッパで同じ質問項目を使って同じ調査をしたところ、まったく同じ割合になりました。85%です。とても多くの沈黙。

とても多くの無視です。面白いと思ったのはスイスの企業に行くと、「これはスイス特有の問題です」と言われ、ドイツに行けば「これはドイツ病です」と言われ、イギリスの企業では「イギリス人が苦手とするところです」と言われます。でも本当は人間固有の問題なのです。

環境がそろうと私たちは誰でも意図的な無視をします。調査で明らかになったのは、恐怖や報復への恐れから無視する人もいれば、目を向けることは無駄でどうせ何も変わらないから無視する人もいることです。

例えばイラク戦争に抗議しても、「何も変わらない、やるだけ無駄、見ないほうがいい」と思うのです。私が繰り返し耳にするのは人々のこんな言葉です。「目を向ける人々はタレ込み屋で奴らがどうなるか誰だって知っている」 内部告発する人については根深い誤解があります。 

まず彼らは「頭がおかしい」という誤解です。

私が世界中を巡って内部告発者と話して気づいたのは、彼らがとても誠実で保守的な人も多いことです。自分が所属する団体への深い忠誠心を持っています。彼らが声を上げる理由、目を逸らすまいとする理由は、その団体を心から大切に思い、健全であってほしいと願っているからです。内部告発者についてこんなことも言われます。

「奴らの活動は無意味だ。奴らの身に何が起こったか見るがいい。潰されてしまうんだ。誰だってそんな経験はしたくないだろう」

一方、告発者達に話を聞くと、彼らの口調には常にプライドがあります。例えばジョー・ダービーです。誰もがアブグレイブ刑務所の写真を覚えているでしょう。世界を震撼させイラクで行われた戦争がどんなものだったかを示したのです。でもジョー・ダービーは記憶にあるでしょうか。

従順で優秀な兵士だった彼が例の写真を発見して告発したのです。以前、ここハンガリーに来た時には存在しなかった自由です。そして投票の自由。特に女性にとっては闘わなければ得られませんでした。いろいろな人種や文化背景、性的志向を持つ人々が望み通りに生きる自由・・・。

でも自由は行使しなければ存在しません。ゲイラ・ベネフィールドのような内部告発者達の行いは、自分たちの持つ自由を行使することに他なりません。彼らは起こりうる事態への覚悟を決めています。

「これから議論が起こり、隣人や同僚や友人たちと言い争うことになるだろうが、こんな争いにも強くなろう」

「否定的な人々の相手もしよう、彼らが私の主張をもっと優れた強固なものにするのだから」

「よりよい活動にするために、反対の立場の人とも協力しよう」

彼らはとても粘り強く、強い忍耐力をもち、無視も沈黙もしないと決意しています。私はモンタナ州リビーに行ったとき、アスベスト症診療所を訪れました。ゲイラ・ベネフィールドのおかげで生まれたものです。最初は治療を必要として助けを求めに来た人でさえ裏口から入ることがありました。

彼女が正しいと認めたくなかったのです。私が食堂の席から外を眺めていると幹線道路をトラックが行き来するのが見えました。家々の庭から土を運び出し汚染のない新しい土と入れ替えていたのです。

私は12歳の娘を連れて行きました。ゲイラに会わせようと思ったのです。

「なんで?」と娘が聞くので私はこう言いました。「ゲイラは映画スターでもセレブでも専門家でもないし、ゲイラ自身が言うとおり聖人なんかじゃない。でも彼女が普通の人だということがとっても大事なの。彼女は私達と同じ普通の人。自由を持っていてそれを行使しようとした」

ありがとうございました。


 

見て見ぬふりをする社会
マーガレット ヘファーナン
河出書房新社

目次

似た者同士の危険
愛はすべてを隠す
頑固な信念
過労と脳の限界
現実を直視しない
無批判な服従のメカニズム
カルト化と裸の王様
傍観者効果
現場との距離
倫理観の崩壊
告発者
見て見ぬふりに陥らないために

 

内容(「BOOK」データベースより)

企業の不正や事故のリスク、過重労働、児童虐待もみんな見て見ぬふり。波風を立てたくない、心配をかけたくない、苦しい決断をしたくない、自分の信念を捨てたくないといった心理から起こる傍観者の態度を詳しく分析。
 

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ヘファーナン,マーガレット
受賞経験もある企業の社長であり、著述家であり脚本家。アメリカ・テキサス州生まれ。ケンブリッジ大学卒。BBCラジオで5年間ドキュメンタリーやドラマの制作に携わったのち、テレビのドキュメンタリー番組のプロデューサーも務めた。ソフトウェア業界やインターネット業界での経験もある