前回ブログの続き。昨夜はテレビ各局が夜のニュース番組で、けさは新聞各紙が一面でウクライナのゼレンスキー大統領のオンラインによる国会演説を大きく取り上げている=写真=。それにしてもゼレンスキー氏の演説はデジタル時代を感じさせる。これまでは、各国元首による国会でのスピーチは国賓として招かれた際の歓迎行事というイメージだった。それが、「飛行機で15時間」のウクライナから、しかもオンラインによる生中継で。でも、よく考えてみれば、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークやオンライン会議は当たり前になっている。国会でリモート演説があっても当然だろう。
もちろん、ゼレンスキー氏は国賓ではなかったが、緊急を要する国際情勢の中で日本はG7の一員としてウクライナを支援している。その当事国の大統領から感謝の意を表したいとオファーがあれば、断る理由はないだろう。外交上の決まりで元首のスピーチの通訳はそれぞれの国の通訳者が行っている。今回も在日ウクライナ大使館の職員がゼレンスキー氏の演説を同時通訳した(24日付・朝日新聞)。
前回のブログでも述べたが、ずいぶんと手慣れたシナリオライターが周囲にいると直感した。ゼレンスキー氏はこれまでアメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアなどの議会でもオンライン演説をしているが、それぞれの国の歴史や文化、出来事を心をつかむフレーズを演説に織り込んでいる。
今回自身の心に刺さったフレーズは、「ウクライナに対する侵略の津波を止めるためにロシアとの貿易禁止を導入し、各企業が撤退しなければならない」(※同時通訳を文章化)と述べたことだった。「ツナミ」、これは東日本大震災における津波被害を念頭に置いた言葉だったのではないだろうか。時期としても3月11日の発生日を意識したものだろう。「津波」は日本人にとってインパクトがある言葉だ。
「2019年私が大統領になって間もなく、私の妻が目がよく見えない子どもたちのためにオーディオブックのプロジェクトに参加した。日本の昔話をウクライナ語でオーディオブックにしたのです」「日本の文化は本当にウクライナ人にとって非常に意味深い。距離があっても、価値観がとても共通している。心が同じように温かい」(同)。
大統領の演説となれば、世界観や歴史観、国際戦略が散らばめられ、遠い政治の世界をイメージする。が、ゼレンスキー氏の演説には庶民目線を含めて実に多様な視点が盛り込まれている。それはなぜか。ゼレンスキー氏の経歴とつながっているのかもしれない。前職はコメディアンや役者などタレントだった。その中で自ら大統領を演じたテレビ番組を制作し、その脚本も書いていた(Wikipedia「ウォロディミル・ゼレンスキー」)。
視聴者や観客に「受ける」、「気を引く」、「次も見てもらう」といった感性が才能として備わっているのだろう。ゼレンスキー氏にとっては今回のオンライン演説は外交という舞台であり、日本公演という感覚だったかもしれない。そう考えると、演説はシナリオライターが書いたものではなく、自作で練ったものなのだろうか。それしても、連日のように世界に発信するメッセージパワーには脱帽する。
⇒24日(木)午前・金沢の天気 くもり時々はれ