5年前の話になるが、「ピカソに会える茶会」という、ちょっと気を引くタイトルの茶会が金沢21世紀美術館の茶室「松涛庵」であった(2017年12月)。床の間に飾ってあったのはピカソの作品『貧しき食事』だった=写真・上=。ワインと一切れのパンを前にした男女の姿が描かれている。男は目が不自由で顔は右の遠くを向いているものの、左手は女の肩に、右手は腕に寄せている。「青の時代」と言われたピカソの初期の作品で、社会の底辺にいる人たちを題材とした作品が多い。作品はこの時期の有名な版画として知られる。ごく限られた数だけ摺られた希少なものと解説があった。濃茶を頂きながら、名画を堪能させていただいた。
2つ質問をしたことを覚えている。一つは、「なぜ、この作品を床の間に飾ったのか」と。すると「ピカソの初期の作品であり、初心に戻ってお茶会をするという企画意図と合ったため」とのこと。2つ目に「そもそもこの貴重な絵はどこからお借りしたのか。あるいは個人所有なのか」と。「高岡にありますイセコレクションの伊勢氏に直接お願いして、お借りした」との返事だった。
イセコレクションは、「森のたまご」のブランドで知られる鶏卵大手「イセ食品」(東京)の前会長、伊勢彦信氏が収集した世界的な名画や彫刻、陶磁器のこと。作品は伊勢氏が代表理事を務めるイセ文化財団(東京)が管理し、創業の地である富山県高岡市のグループ会社のギャラリーで一部を展示している。
そのイセ食品とグループ会社は11日、債権者から東京地裁へ会社更生法を申し立てられ、同地裁から保全管理命令を受けた、と北陸のメディア各社が報じている=写真・下=。「帝国データバンク」Web版(11日付)によると、M&Aなどで業務内容を拡大するなか金融機関からの借り入れが増加。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて卵価が下落、資金繰りが悪化していた。負債はイセ食品とグループ会社の2社の合計で453億円(うち金融債務は260億円)とみられる。
イセ食品の伊勢彦信氏をめぐっては、2019年4月に国税から税務調査を受け、7億円の申告漏れが指摘された。別のグループ会社がアメリカ・ニューヨークのビルを購入・転売して得た利益の一部が配当として伊勢氏に渡っていた。1980年にアメリカでグループ会社を設立し、卵の販売量で全米2位となっている。
話はイセコレクションに戻る。現在92歳の伊勢氏は世界で注目されてきた筋金入りの美術品コレクターである。ふと気になるのは、更生手続きをきっかけにピカソなどのコレクションを売却処分するのか、あるいはコレクターとして意地を通すのか。卵が先か、「ピカソ」が先か。
⇒12日(土)午後・金沢の天気 はれ