12月19日に観た「私の少女時代-Our Times-」が今年の映画の観納め。例年だと20日以降も何本も観ているのに、今年は都合がつかず残念。
で、今年観た映画は全部で84本 (2回観たもの3作品=「暗殺」「ドンジュ(東柱)」「王の運命-歴史を変えた八日間-」は各1回として)。
昨年は<1960・70年代日韓名作映画祭>(at韓国文化院)と<韓国映画1934-1959創造と開花>(atフィルムセンター)、そして毎年恒例の<コリアン・シネマ・ウィーク>(at韓国文化院)と合わせて33作品観たのが大きく計100本に達しましたが、今年はそんな集中的に観たことがなかったわりには多かったと思います。
ただ、少し悔いが残るのは、例年だとたぶん観ただろうという内容&評判の日本映画が多数観ずじまいだったこと。たとえば(後悔度の高い順で)「怒り」「溺れるナイフ」「クリーピー 偽りの隣人」「64-ロクヨン-」「葛城事件」「湯を沸かすほどの熱い愛」「永い言い訳」「お父さんと伊藤さん」等は観てません。
例年の通り、この記事を書くにあたり一応新聞等の映画評やネット内の記事にざっと目を通してみると、これまた例年通り書き手によってマチマチ。
12月16日の「毎日新聞」(夕)の<シネマの週末>欄(→コチラ)では11人の執筆者が邦画・洋画を合わせて今年の5作を選定していますが、のべ55作品中重複分を引くと45作品。つまりベスト5のうち1つ重なっているのが標準ということです。そして重なっている作品が次の10本。( )の数字は重なっている数です。
「この世界の片隅に」(5)「マジカル・ガール」(3)「淵に立つ」(3)「ルーム」(2)「グランドフィナーレ」(2)「手紙は憶えている」(2)「ブルックリン」(2)「ディストラクション・ベイビーズ」(2)「ニュースの真相」(2)「シン・ゴジラ」(2)
ちなみに、上の10作品中私ヌルボが観たのはちょうど半分。しかし後掲のベスト10には1つ、それもかろうじて入れただけです。では、どういうことになったかというと・・・。
[2016年]
①キャロル
②トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
③この世界の片隅に
④ブリッジ・オブ・スパイ
⑤ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
⑥ズートピア
⑦インサイダーズ/内部者たち
⑧そばの花、運のいい日、そして青春
⑨私の少女時代-Our Times-
⑩牡蠣工場
[次点] シアター・プノンペン・ハドソン川の奇跡・危路工団
[別格(初見の旧作)] チリの闘い・アルジェの戦い(デジタル・リマスター版)
※赤色は韓国映画または韓国・北朝鮮に関係する映画です。
以下、今回のベスト10について若干コメント。
1位「キャロル」は、女性同士の恋愛という私ヌルボとしてはこれまでなんとなく敬遠してきたジャンルですが、全然抵抗感がないか、作品に没入できた度合いでいえば今年最高。とくにラストのあたりの2人のセリフのない、目だけの演技にはホントにドキドキしました。考えてみれば、LGBTに対する偏見がむしろ当然のようにあった頃の物語で、今こうした作品がつくられるになったこと自体が時代の変化の現れなんだな、と歴史的・社会的なことも後になって思った次第です。(ある問題が本当にその社会の真只中にある時は、それを題材とした「娯楽」映画がつくられることはまずありえない。)
2位「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は、私ヌルボ個人としては「ジョニーは戦場に行った」(1971)を観た後、角川文庫でも読んで脚本家の彼の名を知って以来気にはなっていましたが、「ローマの休日」、「スパルタカス」、「栄光への脱出」等の作品の背後にこのようなレッドパージと直結する物語があったとは・・・。
・・・この2作品のどちらを1位にするか、最後まで迷いましたが、結局ドキドキ度、ゾクゾク度を優先して決めました。
3位「この世界の片隅に」ですが、実は3位候補はなかなか思い浮かばず。そのまま「判断保留」で番外にするつもりだったこの作品を入れることにしました。多くの人が「感動した」との声を寄せ、高い評価を得ていますが、ヌルボとしては感想を求められてもなかなか言葉が出てきません。それはたぶん「日本人というワクを超えてどれくらい普遍性を持ち得るか?(どれくらい理解されるか?)」ということ等がよくわからないということもあるし、(うーむ、むずかしいな) 庶民を戦争の被害者とだけ描くのでなく、では何らかの責任があるのか、とか・・・、つまるところ戦争が台風や地震のような自然現象ではないとしたらなぜ起こるのかとか、いろんなことを考え始めると何も語れなくなるということ。あるいは、(昨年の「この国の空」のように)戦時にも「変わらぬ日常生活があった」にしても、その中で「異常」「非常」がどのように認識されていたか(orいなかったか)ということは、まさに現在にも通じる問題だと思うのですが、この映画を観た観客ははたして自分自身の「戦争観」と照らし合わせて「ナットクした」のか、それとも新しい認識を得たのか、そこらへんがよくわからないのです。(うーむ、やっぱりむずかしいな。)
以下は極力簡潔にコメント。
4位「ブリッジ・オブ・スパイ」は、<ブリッジ>が境界に架けられた現実の橋のことにとどまらず、ひとつの隠喩になっているということ。
5位「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、絵柄も物語も日本やアメリカのアニメとは違う新鮮な魅力が感じられました。
6位「ズートピア」は、アメリカのアニメの定番の「正義vs悪」の対立という陳腐な図式から1歩、いや2歩程度先に進んだ感じ。それでもまだ「正義」と「悪」は歴然としちゃってますが、キャラクターがカワイイしストーリーもおもしろいのでちょっと甘めに評価。
7位「インサイダーズ/内部者たち」。昨年は韓国映画ゼロのベスト10でしたが、この作品はなかなか見応えがありました。ドラマ「未生」の原作者でもあるユン・テホが進歩系新聞「ハンギョレ」に連載した漫画(右画像)が原作で、政治家・財界人と保守紙論説主幹の「悪のトライアングル」にイ・ビョンホンが演じる政治ヤクザが挑むというこの作品は、やはり巨悪相手に一匹狼のファン・ジョンミンが闘う「ベテラン」よりも重厚感があり、青龍映画賞の作品賞と主演男優賞受賞もナットク。一方、以前にも紹介しましたが、「祖国日報」のモデルの「朝鮮日報」のパク・ウンジュ記者(女性)の「左派が右派に勝てない理由」と題した挑発的な(?)記事。(→コチラ.韓国語。) 「右派=腐敗と決めてかかって罵倒するだけだと百戦百敗だぞ」と忠告(?)している記事はなかなか説得力のある記事だと思いました。
8位「そばの花、運のいい日、そして青春」は<花開くコリア・アニメーション2016>での上映作品。「朝鮮短篇小説選(上・下)」(岩波文庫)所収の日本統治期の短編小説3編が原作のオムニバスのアニメ。落ち着いた色調で当時の雰囲気を描き出しています。中でもパンソリの節に乗せた語りで物語が進められる金裕貞原作の「そして春春」がおもしろかったです。
9位「私の少女時代-Our Times-」は台湾の青春恋愛物。台湾での大ヒットがうなずける気持ちいい感動作。個人的には「あの頃、君を追いかけた」(2013年6位)の方が上だったのでこの順位に。
10位「牡蠣工場」は、想田監督による「観察映画」。ドキュメンタリーといっても、岡山県牛窓の牡蠣工場で中国人労働者等の働いている人たちナレーションやBGMもなくただ撮っているだけなんですけど、なぜか印象に残っています。(なぜなんだろう?)
[次点]の「シアター・プノンペン」は、あのポル・ポト政権の時代がこのような形で記憶に残されている・残そうとしていることに共感を覚えました。「ハドソン川の奇跡」はやはりクリント・イーストウッド監督作品に外れナシ。ただちょっと地味過ぎかな? 「危路工団」は朴正熙政権時代の1970年代頃、ソウル市九老区の工業団地(九老工団)の労働者たちの労働実態と闘争に始まり、現代に至るまでの約40年間の女性労働者の歴史をたどったドキュメンタリー。多くの人たちの証言といった微視的な視点と、時代状況を鳥瞰する視点を持ち、政治的・思想的主張を前面に出すような押しつけがましさがない点が良かったですね。
[別格]の「チリの闘い」は、優れたドキュメンタリーが多かったこの1年でも抜群の作品。アジェンデ政権下の庶民の姿と声を記録した非常に貴重なもので、このフィルムが混乱した状況下によく国外に持ち出され、今に残されたものだと思います。別格でなければ1位です。「アルジェの戦い(デジタル・リマスター版)」は、「キネマ旬報」等の歴代ベスト100の中で観てなかった作品(2割弱)中の1つ。こういうのを観ると、政治闘争等を扱った娯楽作品が顔色を失ってしまうように思われます。※韓国の独立運動関係の娯楽映画「暗殺」はなかなか楽しかったなー(笑) ベンキョーにもなったし・・・。→<多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ)>初回から6回シリーズ。
昨年のベスト10(→コチラ)の中で、映画を評価するモノサシの成分を、[A]娯楽性重視(ストーリー性、視覚効果、アクションのすごさ等に重点) [B]社会性重視(実社会の問題を扱い、メッセージ性がある) [C]芸術性重視(象徴的・抽象的な映像表現やストーリー展開による思弁の深化に重点) の3つに仮に分けてみると、「私ヌルボ自身は、[A]娯楽性=20%、[B]社会性=50%、[C]芸術性=30% といったところかなと思っています」と書きましたが、今回も結果を見るとそうなってるみたいですね。
次に、今年とくに記憶に残った俳優について。
女優では、「キャロル」のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの2人。韓国映画では「荊棘〈ばら〉の秘密」のソン・イェジンと「私たち」の子役チェ・スイン。日本映画では「淵に立つ」の筒井真理子。男優は「ブリッジ・オブ・スパイ」と「ハドソン川の奇跡」のトム・ハンクス。(←なんとフツーなんだろ(笑)。)
[参考]過去9年のベスト10
[2015年]①ボーダレス ぼくの船の国境線②顔のないヒトラーたち③セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター④雪の轍⑤マッドマックス/怒りのデスロード⑥神々のたそがれ⑦幕が上がる⑧海街diary⑨ストレイト・アウタ・コンプトン⑩KANO~1931海の向こうの甲子園~
[次点] バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)・人生スイッチ・恋人たち・傷だらけのふたり・許三観
[別格(初見の旧作)] ショア・裸の島
[2014年]①イーダ②グランド・ブダペスト・ホテル③ジャージー・ボーイズ④罪の手ざわり⑤ソウォン/願い⑥新しき世界⑦ソニはご機嫌ななめ⑧怪しい彼女⑨テロ,ライブ⑩ある精肉店のはなし
[次点] 60万回のトライ
私の少女(扉の少女・ドヒや)・祖谷物語 おくのひと
[2013年]①セデック・バレ②少女は自転車にのって③きっと、うまくいく④もうひとりの息子⑤嘆きのピエタ⑥あの頃、君を追いかけた⑦シュガーマン 奇跡に愛された男⑧ハンナ・アーレント⑨王になった男⑩建築学概論
[次点] 殺人の告白 ・凶悪
[別格] 阿賀に生きる
[多くの人に観てほしい作品] ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして
[2012年]①ニーチェの馬②ヒューゴの不思議な発明③プンサンケ(豊山犬)④ワンドゥギ⑤拝啓、愛しています⑥ロボット 完全版⑦桐島、部活やめるってよ⑧三池 終わらない炭鉱(やま)の物語⑨かぞくのくに⑩ピアノマニア 別格:春夏秋冬そして春
[2011年]①サラの鍵②テザ 慟哭の大地③愛する人④彼とわたしの漂流日記⑤アリス・クリードの失踪⑥阪急電車 片道15分の奇跡⑦牛と一緒に7泊8日⑧未来を生きる君たちへ⑨ゴーストライター⑩エンディングノート
[2010年]①息もできない②過速スキャンダル③冬の小鳥④ゲキシネ蛮幽鬼(日)⑤実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(日)⑥告白(日)⑦瞳の奥の秘密⑧飛べ!ペンギン⑨川の底からこんにちは(日)⑩ONE SHOT ONE KILL
[2009年]①グラン・トリノ②ディア・ピョンヤン(日)③妻が結婚した④母なる証明⑤チェイサー⑥チェンジリング⑦劔岳 点の記(日)⑧チョコレート・ファイター⑨戦場のワルツ⑩牛の鈴音
[2008年]①ダークナイト②パコと魔法の絵本(日)③ウリハッキョ(日)④休暇(日)⑤シークレット・サンシャイン⑥ラスト・コーション⑦接吻(日)⑧おくりびと(日)⑨闇の子供たち(日)⑩火垂るの墓・実写版(日)
[2007年]①世界最速のインディアン②パンズ・ラビリンス③キサラギ(日)④ドリームガールズ⑤それでも僕はやっていない(日)⑥夕凪の街 桜の国(日)⑦幸福(しあわせ)のスイッチ(日)⑧檸檬の頃(日)⑨幸福(こうふく)の食卓(日)⑩私たちの幸せな時間
で、今年観た映画は全部で84本 (2回観たもの3作品=「暗殺」「ドンジュ(東柱)」「王の運命-歴史を変えた八日間-」は各1回として)。
昨年は<1960・70年代日韓名作映画祭>(at韓国文化院)と<韓国映画1934-1959創造と開花>(atフィルムセンター)、そして毎年恒例の<コリアン・シネマ・ウィーク>(at韓国文化院)と合わせて33作品観たのが大きく計100本に達しましたが、今年はそんな集中的に観たことがなかったわりには多かったと思います。
ただ、少し悔いが残るのは、例年だとたぶん観ただろうという内容&評判の日本映画が多数観ずじまいだったこと。たとえば(後悔度の高い順で)「怒り」「溺れるナイフ」「クリーピー 偽りの隣人」「64-ロクヨン-」「葛城事件」「湯を沸かすほどの熱い愛」「永い言い訳」「お父さんと伊藤さん」等は観てません。
例年の通り、この記事を書くにあたり一応新聞等の映画評やネット内の記事にざっと目を通してみると、これまた例年通り書き手によってマチマチ。
12月16日の「毎日新聞」(夕)の<シネマの週末>欄(→コチラ)では11人の執筆者が邦画・洋画を合わせて今年の5作を選定していますが、のべ55作品中重複分を引くと45作品。つまりベスト5のうち1つ重なっているのが標準ということです。そして重なっている作品が次の10本。( )の数字は重なっている数です。
「この世界の片隅に」(5)「マジカル・ガール」(3)「淵に立つ」(3)「ルーム」(2)「グランドフィナーレ」(2)「手紙は憶えている」(2)「ブルックリン」(2)「ディストラクション・ベイビーズ」(2)「ニュースの真相」(2)「シン・ゴジラ」(2)
ちなみに、上の10作品中私ヌルボが観たのはちょうど半分。しかし後掲のベスト10には1つ、それもかろうじて入れただけです。では、どういうことになったかというと・・・。
[2016年]
①キャロル
②トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
③この世界の片隅に
④ブリッジ・オブ・スパイ
⑤ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
⑥ズートピア
⑦インサイダーズ/内部者たち
⑧そばの花、運のいい日、そして青春
⑨私の少女時代-Our Times-
⑩牡蠣工場
[次点] シアター・プノンペン・ハドソン川の奇跡・危路工団
[別格(初見の旧作)] チリの闘い・アルジェの戦い(デジタル・リマスター版)
※赤色は韓国映画または韓国・北朝鮮に関係する映画です。
以下、今回のベスト10について若干コメント。
1位「キャロル」は、女性同士の恋愛という私ヌルボとしてはこれまでなんとなく敬遠してきたジャンルですが、全然抵抗感がないか、作品に没入できた度合いでいえば今年最高。とくにラストのあたりの2人のセリフのない、目だけの演技にはホントにドキドキしました。考えてみれば、LGBTに対する偏見がむしろ当然のようにあった頃の物語で、今こうした作品がつくられるになったこと自体が時代の変化の現れなんだな、と歴史的・社会的なことも後になって思った次第です。(ある問題が本当にその社会の真只中にある時は、それを題材とした「娯楽」映画がつくられることはまずありえない。)
2位「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は、私ヌルボ個人としては「ジョニーは戦場に行った」(1971)を観た後、角川文庫でも読んで脚本家の彼の名を知って以来気にはなっていましたが、「ローマの休日」、「スパルタカス」、「栄光への脱出」等の作品の背後にこのようなレッドパージと直結する物語があったとは・・・。
・・・この2作品のどちらを1位にするか、最後まで迷いましたが、結局ドキドキ度、ゾクゾク度を優先して決めました。
3位「この世界の片隅に」ですが、実は3位候補はなかなか思い浮かばず。そのまま「判断保留」で番外にするつもりだったこの作品を入れることにしました。多くの人が「感動した」との声を寄せ、高い評価を得ていますが、ヌルボとしては感想を求められてもなかなか言葉が出てきません。それはたぶん「日本人というワクを超えてどれくらい普遍性を持ち得るか?(どれくらい理解されるか?)」ということ等がよくわからないということもあるし、(うーむ、むずかしいな) 庶民を戦争の被害者とだけ描くのでなく、では何らかの責任があるのか、とか・・・、つまるところ戦争が台風や地震のような自然現象ではないとしたらなぜ起こるのかとか、いろんなことを考え始めると何も語れなくなるということ。あるいは、(昨年の「この国の空」のように)戦時にも「変わらぬ日常生活があった」にしても、その中で「異常」「非常」がどのように認識されていたか(orいなかったか)ということは、まさに現在にも通じる問題だと思うのですが、この映画を観た観客ははたして自分自身の「戦争観」と照らし合わせて「ナットクした」のか、それとも新しい認識を得たのか、そこらへんがよくわからないのです。(うーむ、やっぱりむずかしいな。)
以下は極力簡潔にコメント。
4位「ブリッジ・オブ・スパイ」は、<ブリッジ>が境界に架けられた現実の橋のことにとどまらず、ひとつの隠喩になっているということ。
5位「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、絵柄も物語も日本やアメリカのアニメとは違う新鮮な魅力が感じられました。
6位「ズートピア」は、アメリカのアニメの定番の「正義vs悪」の対立という陳腐な図式から1歩、いや2歩程度先に進んだ感じ。それでもまだ「正義」と「悪」は歴然としちゃってますが、キャラクターがカワイイしストーリーもおもしろいのでちょっと甘めに評価。
7位「インサイダーズ/内部者たち」。昨年は韓国映画ゼロのベスト10でしたが、この作品はなかなか見応えがありました。ドラマ「未生」の原作者でもあるユン・テホが進歩系新聞「ハンギョレ」に連載した漫画(右画像)が原作で、政治家・財界人と保守紙論説主幹の「悪のトライアングル」にイ・ビョンホンが演じる政治ヤクザが挑むというこの作品は、やはり巨悪相手に一匹狼のファン・ジョンミンが闘う「ベテラン」よりも重厚感があり、青龍映画賞の作品賞と主演男優賞受賞もナットク。一方、以前にも紹介しましたが、「祖国日報」のモデルの「朝鮮日報」のパク・ウンジュ記者(女性)の「左派が右派に勝てない理由」と題した挑発的な(?)記事。(→コチラ.韓国語。) 「右派=腐敗と決めてかかって罵倒するだけだと百戦百敗だぞ」と忠告(?)している記事はなかなか説得力のある記事だと思いました。
8位「そばの花、運のいい日、そして青春」は<花開くコリア・アニメーション2016>での上映作品。「朝鮮短篇小説選(上・下)」(岩波文庫)所収の日本統治期の短編小説3編が原作のオムニバスのアニメ。落ち着いた色調で当時の雰囲気を描き出しています。中でもパンソリの節に乗せた語りで物語が進められる金裕貞原作の「そして春春」がおもしろかったです。
9位「私の少女時代-Our Times-」は台湾の青春恋愛物。台湾での大ヒットがうなずける気持ちいい感動作。個人的には「あの頃、君を追いかけた」(2013年6位)の方が上だったのでこの順位に。
10位「牡蠣工場」は、想田監督による「観察映画」。ドキュメンタリーといっても、岡山県牛窓の牡蠣工場で中国人労働者等の働いている人たちナレーションやBGMもなくただ撮っているだけなんですけど、なぜか印象に残っています。(なぜなんだろう?)
[次点]の「シアター・プノンペン」は、あのポル・ポト政権の時代がこのような形で記憶に残されている・残そうとしていることに共感を覚えました。「ハドソン川の奇跡」はやはりクリント・イーストウッド監督作品に外れナシ。ただちょっと地味過ぎかな? 「危路工団」は朴正熙政権時代の1970年代頃、ソウル市九老区の工業団地(九老工団)の労働者たちの労働実態と闘争に始まり、現代に至るまでの約40年間の女性労働者の歴史をたどったドキュメンタリー。多くの人たちの証言といった微視的な視点と、時代状況を鳥瞰する視点を持ち、政治的・思想的主張を前面に出すような押しつけがましさがない点が良かったですね。
[別格]の「チリの闘い」は、優れたドキュメンタリーが多かったこの1年でも抜群の作品。アジェンデ政権下の庶民の姿と声を記録した非常に貴重なもので、このフィルムが混乱した状況下によく国外に持ち出され、今に残されたものだと思います。別格でなければ1位です。「アルジェの戦い(デジタル・リマスター版)」は、「キネマ旬報」等の歴代ベスト100の中で観てなかった作品(2割弱)中の1つ。こういうのを観ると、政治闘争等を扱った娯楽作品が顔色を失ってしまうように思われます。※韓国の独立運動関係の娯楽映画「暗殺」はなかなか楽しかったなー(笑) ベンキョーにもなったし・・・。→<多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ)>初回から6回シリーズ。
昨年のベスト10(→コチラ)の中で、映画を評価するモノサシの成分を、[A]娯楽性重視(ストーリー性、視覚効果、アクションのすごさ等に重点) [B]社会性重視(実社会の問題を扱い、メッセージ性がある) [C]芸術性重視(象徴的・抽象的な映像表現やストーリー展開による思弁の深化に重点) の3つに仮に分けてみると、「私ヌルボ自身は、[A]娯楽性=20%、[B]社会性=50%、[C]芸術性=30% といったところかなと思っています」と書きましたが、今回も結果を見るとそうなってるみたいですね。
次に、今年とくに記憶に残った俳優について。
女優では、「キャロル」のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの2人。韓国映画では「荊棘〈ばら〉の秘密」のソン・イェジンと「私たち」の子役チェ・スイン。日本映画では「淵に立つ」の筒井真理子。男優は「ブリッジ・オブ・スパイ」と「ハドソン川の奇跡」のトム・ハンクス。(←なんとフツーなんだろ(笑)。)
[参考]過去9年のベスト10
[2015年]①ボーダレス ぼくの船の国境線②顔のないヒトラーたち③セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター④雪の轍⑤マッドマックス/怒りのデスロード⑥神々のたそがれ⑦幕が上がる⑧海街diary⑨ストレイト・アウタ・コンプトン⑩KANO~1931海の向こうの甲子園~
[次点] バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)・人生スイッチ・恋人たち・傷だらけのふたり・許三観
[別格(初見の旧作)] ショア・裸の島
[2014年]①イーダ②グランド・ブダペスト・ホテル③ジャージー・ボーイズ④罪の手ざわり⑤ソウォン/願い⑥新しき世界⑦ソニはご機嫌ななめ⑧怪しい彼女⑨テロ,ライブ⑩ある精肉店のはなし
[次点] 60万回のトライ
私の少女(扉の少女・ドヒや)・祖谷物語 おくのひと
[2013年]①セデック・バレ②少女は自転車にのって③きっと、うまくいく④もうひとりの息子⑤嘆きのピエタ⑥あの頃、君を追いかけた⑦シュガーマン 奇跡に愛された男⑧ハンナ・アーレント⑨王になった男⑩建築学概論
[次点] 殺人の告白 ・凶悪
[別格] 阿賀に生きる
[多くの人に観てほしい作品] ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして
[2012年]①ニーチェの馬②ヒューゴの不思議な発明③プンサンケ(豊山犬)④ワンドゥギ⑤拝啓、愛しています⑥ロボット 完全版⑦桐島、部活やめるってよ⑧三池 終わらない炭鉱(やま)の物語⑨かぞくのくに⑩ピアノマニア 別格:春夏秋冬そして春
[2011年]①サラの鍵②テザ 慟哭の大地③愛する人④彼とわたしの漂流日記⑤アリス・クリードの失踪⑥阪急電車 片道15分の奇跡⑦牛と一緒に7泊8日⑧未来を生きる君たちへ⑨ゴーストライター⑩エンディングノート
[2010年]①息もできない②過速スキャンダル③冬の小鳥④ゲキシネ蛮幽鬼(日)⑤実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(日)⑥告白(日)⑦瞳の奥の秘密⑧飛べ!ペンギン⑨川の底からこんにちは(日)⑩ONE SHOT ONE KILL
[2009年]①グラン・トリノ②ディア・ピョンヤン(日)③妻が結婚した④母なる証明⑤チェイサー⑥チェンジリング⑦劔岳 点の記(日)⑧チョコレート・ファイター⑨戦場のワルツ⑩牛の鈴音
[2008年]①ダークナイト②パコと魔法の絵本(日)③ウリハッキョ(日)④休暇(日)⑤シークレット・サンシャイン⑥ラスト・コーション⑦接吻(日)⑧おくりびと(日)⑨闇の子供たち(日)⑩火垂るの墓・実写版(日)
[2007年]①世界最速のインディアン②パンズ・ラビリンス③キサラギ(日)④ドリームガールズ⑤それでも僕はやっていない(日)⑥夕凪の街 桜の国(日)⑦幸福(しあわせ)のスイッチ(日)⑧檸檬の頃(日)⑨幸福(こうふく)の食卓(日)⑩私たちの幸せな時間