6月25日の「朝鮮日報」に、<2011年上半期ベストセラー200>のリストと、それについての識者の分析記事が載っていました。
それからもう1ヵ月以上も経って、新鮮味に欠けるテーマになってしまったのは、リスト自体が目をみはるような内容でもなさそうで、正直なところ書こうという意欲が起こらなかったからです。しかし、考えてみれば「おもしろくない」という記録を残しておくことにも意味があるわけで、それなりの注目点と私ヌルボなりの感想を記しておくことにしました。
・・・ということで、上位20位まで紹介します。
※上記リンク先で200位までのリストを見ることができますが、全部訳すのはかったるいので、20位までにしました。
※「朝鮮日報」によると、このリストは大型書店の教保文庫と永豊文庫、大手ネット書店のYES24とインターパークの販売冊数を合算して作成したものです。
[赤=韓国 緑=日本 青=その他の国]
1位 キム・ナンド\t「苦しいから青春だ」\t31.5万\t(エッセイ)
2位 マイクル・サンデル\t「これからの「正義」の話をしよう」\t13.7万\t(人文教養)
3位 小池龍之介\t「考えない練習」10.1万\t(エッセイ)
4位 申京淑\t「オンマをお願い」\t9.2万\t(文学)
5位 チャン・ハジュン\t「世界経済を破綻させる23の嘘」\t9.1万\t(人文教養)
6位 ネレ・ノイハウス\t「白雪姫に死を」\t6.4万\t(文学)
7位 ギョーム・ミュッソ\t「紙の女」\t6.3万\t(文学)
8位 コ・ドウォン\t「愛していますありがとう」\t6.3万\t(エッセイ)
9位 ホアキム・デ・ポサダ\t「馬鹿ビクター」\t5.9万\t(自己啓発)
10位 イ・ジソン\t「リーディングでリードせよ」\t5.0万\t(自己啓発)
11位 シン・ジョンア\t「4001」\t4.4万\t(エッセイ)
12位 パウロ・コエーリョ\t「ブリーダ」\t4.4万\t(文学)
13位 朴婉緒\t「行けない道がより美しい」\t4.3万\t(エッセイ)
14位 イ・テソク\t「友だちになってくれますか」\t4.2万\t(エッセイ)
15位 ジョン・ガットマン\t「私の子どものための感情コーチング」\t3.9万\t(実用)
16位 小池龍之介\t「もう、怒らない」\t3.8万\t(エッセイ)
17位 ソン・ソンファ\t「ビルディング長者たち」\t3.6万\t(経済経営)
18位 キム・ジェドン\t「キム・ジェドンが会いに行きます」3.5万\t(エッセイ)
19位 孔枝泳\t「孔枝泳の智異山(チリサン)幸福学校」\t3.4万\t(エッセイ)
20位 金辰明\t「高句麗(1)」\t3.3万\t(文学)
このリストに対する識者グループの分析結果には、<上半期ベストセラーから見た「韓国3大キーワード」>という見出しがつけられています。
その3つのキーワードというのは、「挫折した青春」「不安な30代」「分配と代案」ということなのだそうです。「韓国社会に膨満した憤怒が生々しく表れている」と6人の識者たちが口をそろえているとか・・・。ふーむ、どこからそういうことが言えるのかな・・・。
とりあえず上位の本を見てみます。
1位は数字的に他を圧しているキム・ナンド(金蘭都)ソウル大教授の本。学生が直接評価する「ソウル大学の優秀講義」に選ばれるなど<ソウル大学のマイケル・サンデル教授>ともよばれています、と「オンニネ」というブログの記事にありました。
挫折した20代に向かって「努力し挑戦せよ」と励まして共感をよんだそうですが、このブログによると「40代のオンニも共感するところの多い本」で「自信(と自身)を取り戻すきっかけも見いだすのではないでしょうか?」とコメントされています。また「統一日報」でも韓国の社会状況と絡めた紹介記事(翻訳者の吉原育子さんによる)が載っています。
2位は、日本でもブームになった本家のマイケル・サンデル教授。
3位は日本の小池龍之介「考えない練習」。意外に思うどころか、「え、どういう人なの?」と疑問に思った人も多いかも・・・。東大出の僧侶で、詳しくはウィキ(→コチラ)を参照されたし。そういえば、この春頃、「朝鮮日報」に、彼の本の広告が「ベストセラー!」として大きく掲載されていましたねー。彼の著書は「もう、怒らない」も16位に入っています。
※「考えない練習」についての「週刊朝日」の書評は→コチラ。
これらベスト3の販売量が1~200位までの全体の販売数の5分の1を占めています。
5位のチャン・ハジュンは新自由主義を批判する経済学者。「世界経済を破綻させる23の嘘」は日本でも刊行されています。
11位のシン・ジョンアは、2007年エール大の博士号偽造と学歴を詐称し美術館の資金を横領したとして懲役1年6月の実刑判決を受けた元東国大助教授(女性)。この自伝的エッセイでは要人の名が実名で出てきたりして、再び話題を巻き起こしました。2007年の事件の概要はコチラの記事→「面白過ぎるシン・ジョンア学歴詐称事件」で。
18位のキム・ジェドンは、さまざまな番組で活躍している1974年生まれの司会者。この本は、彼が「京郷新聞」に連載している各界を代表する25人とのインタビューを綴ったもの。
20位の金辰明は、嫌韓派の非難の的というべき反日小説「ムクゲの花が咲きました」の著者。今度の「高句麗」は、東北工程以降高句麗はウチらのナワバリとと声を強めている中国に対抗する、どこまでも愛国心旺盛な作家です。(あーあ。)
さて、私ヌルボが「おもしろくない」と書いたのは、とくに文学の分野で新鮮味が欠けるからです。
一昨年の大ベストセラー小説・申京淑「オンマをお願い」が4位に復活したのは、4月28日の記事でも書いたように、英訳がアメリカで刊行されたことが大きく報道されたから。13位「行けない道がより美しい」は昨年もよく読まれましたが、朴婉緒は今年1月22日に亡くなって再び関心を集めました。
文学分野を、100位までの中から拾ってみると次の通りです。
24位\tルイス・キャロル\t「不思議の国のアリス」
26位\t村上春樹\t「1Q84 (3)」
27位\t金辰明\t「高句麗 (2)」
34位\t金辰明\t「高句麗 (3)」
36位\t鄭裕静\t「7年の夜」
38位\tダグラス・ケネディ\t「ビッグ・ピクチャー
39位\tベルナール・ヴェルベール\t「カサンドラの鏡 (1)」
40位\t村上春樹\t「1Q84 (1)」
46位\tベルナール・ヴェルベール\t「カサンドラの鏡 (2)」
48位\t村上春樹\t1Q84 (2)」
49位\t孔枝泳\t「裸足で文章の路地を回る」
57位\t趙廷来\t「かかしの舞い」
74位\tスティーグ・ラーソン\t「ミレニアム (1)」
92位\t崔仁浩\t「見慣れぬ他人たちの都市」
95位\tクォン・ビヨン\t「徳恵翁主」
97位\t江國香織\t「流しのしたの骨」
49位の孔枝泳「裸足で文章の路地を回る」は5月5日の記事に書いたように、今年の李箱文学賞受賞作です。
57位の趙廷来(1943~)と92位の崔仁浩(1945~)は「大」がつくくらいのベテラン作家。
日本人作家は相変わらずの顔ぶれ。奥田英朗などエンタメ系が入っていないのがやや意外。
その他の外国作家に目を移すと、ここもミュッソといいコエーリョといいヴェルベールといい、うんざりするほどのマンネリ。
目新しい作家はと探すと、36位の鄭裕靜(チョン・ユジョン)くらいなもんですね。この「7年の夜」を読んだ
JutakotaさんはTwitterに「面白かった~~~~! 骨太なプロットに鋭い切り開き、肉体/精神的な苦痛のクールな描写…ハードボイルド過ぎる女流作家の誕生。「文壇のアマゾネス」って適切な褒め言葉かも」と賛辞を書き込んでいます。この鄭裕靜(1966~)は2007年「私の人生のスプリング・キャンプ」で第1回世界青少年文学賞を、2009年「私の心を撃つ」で第5回世界賞を受賞。「強い主題意識と優れた構成、ストーリーを貫通するユーモアと反転」等が評価されたそうです。
・・・ということで、リストは前述のように200位まで続いていますが、それよりも小説とか漫画とか人文・社会等の分野ごとに見た方が得るところはあったかも・・・。
それからもう1ヵ月以上も経って、新鮮味に欠けるテーマになってしまったのは、リスト自体が目をみはるような内容でもなさそうで、正直なところ書こうという意欲が起こらなかったからです。しかし、考えてみれば「おもしろくない」という記録を残しておくことにも意味があるわけで、それなりの注目点と私ヌルボなりの感想を記しておくことにしました。
・・・ということで、上位20位まで紹介します。
※上記リンク先で200位までのリストを見ることができますが、全部訳すのはかったるいので、20位までにしました。
※「朝鮮日報」によると、このリストは大型書店の教保文庫と永豊文庫、大手ネット書店のYES24とインターパークの販売冊数を合算して作成したものです。
[赤=韓国 緑=日本 青=その他の国]
1位 キム・ナンド\t「苦しいから青春だ」\t31.5万\t(エッセイ)
2位 マイクル・サンデル\t「これからの「正義」の話をしよう」\t13.7万\t(人文教養)
3位 小池龍之介\t「考えない練習」10.1万\t(エッセイ)
4位 申京淑\t「オンマをお願い」\t9.2万\t(文学)
5位 チャン・ハジュン\t「世界経済を破綻させる23の嘘」\t9.1万\t(人文教養)
6位 ネレ・ノイハウス\t「白雪姫に死を」\t6.4万\t(文学)
7位 ギョーム・ミュッソ\t「紙の女」\t6.3万\t(文学)
8位 コ・ドウォン\t「愛していますありがとう」\t6.3万\t(エッセイ)
9位 ホアキム・デ・ポサダ\t「馬鹿ビクター」\t5.9万\t(自己啓発)
10位 イ・ジソン\t「リーディングでリードせよ」\t5.0万\t(自己啓発)
11位 シン・ジョンア\t「4001」\t4.4万\t(エッセイ)
12位 パウロ・コエーリョ\t「ブリーダ」\t4.4万\t(文学)
13位 朴婉緒\t「行けない道がより美しい」\t4.3万\t(エッセイ)
14位 イ・テソク\t「友だちになってくれますか」\t4.2万\t(エッセイ)
15位 ジョン・ガットマン\t「私の子どものための感情コーチング」\t3.9万\t(実用)
16位 小池龍之介\t「もう、怒らない」\t3.8万\t(エッセイ)
17位 ソン・ソンファ\t「ビルディング長者たち」\t3.6万\t(経済経営)
18位 キム・ジェドン\t「キム・ジェドンが会いに行きます」3.5万\t(エッセイ)
19位 孔枝泳\t「孔枝泳の智異山(チリサン)幸福学校」\t3.4万\t(エッセイ)
20位 金辰明\t「高句麗(1)」\t3.3万\t(文学)
このリストに対する識者グループの分析結果には、<上半期ベストセラーから見た「韓国3大キーワード」>という見出しがつけられています。
その3つのキーワードというのは、「挫折した青春」「不安な30代」「分配と代案」ということなのだそうです。「韓国社会に膨満した憤怒が生々しく表れている」と6人の識者たちが口をそろえているとか・・・。ふーむ、どこからそういうことが言えるのかな・・・。
とりあえず上位の本を見てみます。
1位は数字的に他を圧しているキム・ナンド(金蘭都)ソウル大教授の本。学生が直接評価する「ソウル大学の優秀講義」に選ばれるなど<ソウル大学のマイケル・サンデル教授>ともよばれています、と「オンニネ」というブログの記事にありました。
挫折した20代に向かって「努力し挑戦せよ」と励まして共感をよんだそうですが、このブログによると「40代のオンニも共感するところの多い本」で「自信(と自身)を取り戻すきっかけも見いだすのではないでしょうか?」とコメントされています。また「統一日報」でも韓国の社会状況と絡めた紹介記事(翻訳者の吉原育子さんによる)が載っています。
2位は、日本でもブームになった本家のマイケル・サンデル教授。
3位は日本の小池龍之介「考えない練習」。意外に思うどころか、「え、どういう人なの?」と疑問に思った人も多いかも・・・。東大出の僧侶で、詳しくはウィキ(→コチラ)を参照されたし。そういえば、この春頃、「朝鮮日報」に、彼の本の広告が「ベストセラー!」として大きく掲載されていましたねー。彼の著書は「もう、怒らない」も16位に入っています。
※「考えない練習」についての「週刊朝日」の書評は→コチラ。
これらベスト3の販売量が1~200位までの全体の販売数の5分の1を占めています。
5位のチャン・ハジュンは新自由主義を批判する経済学者。「世界経済を破綻させる23の嘘」は日本でも刊行されています。
11位のシン・ジョンアは、2007年エール大の博士号偽造と学歴を詐称し美術館の資金を横領したとして懲役1年6月の実刑判決を受けた元東国大助教授(女性)。この自伝的エッセイでは要人の名が実名で出てきたりして、再び話題を巻き起こしました。2007年の事件の概要はコチラの記事→「面白過ぎるシン・ジョンア学歴詐称事件」で。
18位のキム・ジェドンは、さまざまな番組で活躍している1974年生まれの司会者。この本は、彼が「京郷新聞」に連載している各界を代表する25人とのインタビューを綴ったもの。
20位の金辰明は、嫌韓派の非難の的というべき反日小説「ムクゲの花が咲きました」の著者。今度の「高句麗」は、東北工程以降高句麗はウチらのナワバリとと声を強めている中国に対抗する、どこまでも愛国心旺盛な作家です。(あーあ。)
さて、私ヌルボが「おもしろくない」と書いたのは、とくに文学の分野で新鮮味が欠けるからです。
一昨年の大ベストセラー小説・申京淑「オンマをお願い」が4位に復活したのは、4月28日の記事でも書いたように、英訳がアメリカで刊行されたことが大きく報道されたから。13位「行けない道がより美しい」は昨年もよく読まれましたが、朴婉緒は今年1月22日に亡くなって再び関心を集めました。
文学分野を、100位までの中から拾ってみると次の通りです。
24位\tルイス・キャロル\t「不思議の国のアリス」
26位\t村上春樹\t「1Q84 (3)」
27位\t金辰明\t「高句麗 (2)」
34位\t金辰明\t「高句麗 (3)」
36位\t鄭裕静\t「7年の夜」
38位\tダグラス・ケネディ\t「ビッグ・ピクチャー
39位\tベルナール・ヴェルベール\t「カサンドラの鏡 (1)」
40位\t村上春樹\t「1Q84 (1)」
46位\tベルナール・ヴェルベール\t「カサンドラの鏡 (2)」
48位\t村上春樹\t1Q84 (2)」
49位\t孔枝泳\t「裸足で文章の路地を回る」
57位\t趙廷来\t「かかしの舞い」
74位\tスティーグ・ラーソン\t「ミレニアム (1)」
92位\t崔仁浩\t「見慣れぬ他人たちの都市」
95位\tクォン・ビヨン\t「徳恵翁主」
97位\t江國香織\t「流しのしたの骨」
49位の孔枝泳「裸足で文章の路地を回る」は5月5日の記事に書いたように、今年の李箱文学賞受賞作です。
57位の趙廷来(1943~)と92位の崔仁浩(1945~)は「大」がつくくらいのベテラン作家。
日本人作家は相変わらずの顔ぶれ。奥田英朗などエンタメ系が入っていないのがやや意外。
その他の外国作家に目を移すと、ここもミュッソといいコエーリョといいヴェルベールといい、うんざりするほどのマンネリ。
目新しい作家はと探すと、36位の鄭裕靜(チョン・ユジョン)くらいなもんですね。この「7年の夜」を読んだ
JutakotaさんはTwitterに「面白かった~~~~! 骨太なプロットに鋭い切り開き、肉体/精神的な苦痛のクールな描写…ハードボイルド過ぎる女流作家の誕生。「文壇のアマゾネス」って適切な褒め言葉かも」と賛辞を書き込んでいます。この鄭裕靜(1966~)は2007年「私の人生のスプリング・キャンプ」で第1回世界青少年文学賞を、2009年「私の心を撃つ」で第5回世界賞を受賞。「強い主題意識と優れた構成、ストーリーを貫通するユーモアと反転」等が評価されたそうです。
・・・ということで、リストは前述のように200位まで続いていますが、それよりも小説とか漫画とか人文・社会等の分野ごとに見た方が得るところはあったかも・・・。