9月22日に公開された映画「るつぼ(도가니.トガニ)」が韓国社会に大きな旋風を巻き起こしています。
「朝鮮日報」(日本語版)の関連記事の見出しと、その要点を日付順に並べてみます。
○8月22日 コン・ユ、作品との縁を語る=『るつぼ』
コン・ユは「軍隊生活中、指揮官が『コン兵長にぴったりだと思う』と言って下さった本が、孔枝泳さんの小説『るつぼ』だった。好奇心半分で読み始めたが、まるで何かに流されるように、時間を忘れて夢中で読んだ」と語った。「最後の休暇をもらったとき、直接にではなくある人を通じて、孔枝泳さんに、この小説を映画化できないかと尋ねた。そして今、僕はここにいる」と話した。
○9月27日 障碍児に教師が性的暴行、実話映画化の波紋
(映画の素材となった実際の事件のあらましを記しています。)
○9月28日 性的暴行:「むごい事件、世間に伝えるべきだと思った」映画『るつぼ』のファン・ドンヒョク監督
ファン監督は「人々の話題に上ることは予想していたが、こんなに早くから爆発的な反響があるとは考えもしなかった。早くから大きな反響を呼んだ代わりにすぐに冷めてしまい、忘れられはしないかと心配だ」と語った。
また、周囲の人々は監督に「ハッピーエンドでなければヒットは見込めない」と助言したが、ファン監督は「観客をわざと不快にさせようとした」と言い切った。
映画の中で、チョン・ユミ演じるヒロインは「私たちが戦うのは世の中を変えるためではなく、世の中が私たちを変えられないようにするため」と訴えた。ファン監督は原作小説のこの一文が最も印象深く、映画でもそのまま使ったという。
※実は私ヌルボ、本ブログの2009年8月13日の記事<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む②>で次のように書いていたんですよ。
<悪>に果敢に立ち向かう人権運動センターで働く女性ソ・ユジンに、事件担当のチャン巡査部長が「そんな純真な方法で世の中を変えようというのは・・・・」と言うのを遮って、ユジンは決然と言う。
「そんな考えは父が亡くなって捨てました。私は世の中に私が変えられないように闘っているんです」。
このひたむきすぎるほどのひたむきさ。まさに386世代の代表作家らしい孔枝泳自身が投影されている。
・・・つまり同一箇所です。ここらへんはファン監督とヌルボ、まったく同じ感性を持っていましたね。
○9月28日 性的暴行:『るつぼ』事件は進行形、加害者が依然在籍
この事件の露見前、被害生徒が教師らに被害事実を告げたが、学校の要職を独占していた校長等一族経営の権力によって、事件は5年以上にわたり外部に知られることはなかった。
事件初期、対策委は同校に対する調査を経て、性犯罪加害者6人を検察に告発し、学校役員の解任を勧告した。しかし学校法人側が刑が確定するまで理事解任処分を差し止める仮処分申請を行い、裁判所がそれを認めたため、役員解任には至らなかった。また加害者の量刑にも疑問が提起されている。
○9月29日 性的暴行:『るつぼ』鑑賞した大法院長「衝撃的」光州高裁「映画の判決は実際と少し違う」
○9月29日 性的暴行:『るつぼ』事件、警察が全面的に再捜査
韓国警察庁の特別捜査チームは、▲加害教諭による余罪▲市庁・区庁・教育庁など行政当局とインファ学校との癒着関係の有無▲当局による管理監督体制が適切だったか▲インファ学校内部の構造的問題点と不正―を重点的に調べる方針。また同校の生徒間で性的暴行事件があったとの疑いについても捜査を進める。
○9月29日 性的暴行:教科部、インファ学校への制裁案を検討
教科部(日本の文科省に相当)は教育委託の取り消しなどの制裁案を検討している、と28日発表。また性的暴行事件を起こした教員や生徒に対する懲戒処分のレベルを引き上げや、寮を設置している全国41校の特殊学校を対象に、障碍を持つ児童・生徒の生活の実態について点検を行う方針を打ち出した。
○9月29日 障碍生徒への性的暴行、全国で続々発覚江原道江陵市や、慶尚北道の施設でも同様の事件が・・・。
○9月30日 [社説] 障碍者への犯罪、法改正で厳罰を
判決当時の法律の規定上、この程度の判決しか下せなかったのはやむを得なかった。19歳未満の児童や青少年への性犯罪に関する法律が改正されたのはつい昨年のことで、改正によって親告罪の廃止と共に告訴の期限が撤廃され、時効(10年)も被害者が成人となった時点から起算するようになった。ただ、これまで司法が障碍者や児童に対する性犯罪の深刻さや不道徳性について十分に認識せず、淡々と判決を下す傾向が見られたのは事実だ。
※下線部は代表的保守紙「朝鮮日報」らしい書きぶり(?)
以下は韓国語版記事。まもなく日本語版にも載るでしょう。
○9月28日 [萬物相] 映画の力(韓国語)
連載コラム。「キリング・フィールド」や「シルミド(実尾島)」等過去の映画を引き合いに少しでも取り上げる。
・・・が、オザナリ的。100字評で、一読者が「言論が正しい役割を果たしていなかった」、「るつぼ」問題も当時正しく記事化せず、社会的問題にできなかった責任がある」と指摘。はるかに正鵠を射ています。日本でも同様の事例はいくつもありますね。
○9月30日 国会も「るつぼ」烈風…暴露教師「涙の証言」(韓国語)
30日、国会教育科学技術委員会(日本の文教委員会でしょう)で光州教育庁と全羅南道教育庁を対象に実施した国政監査が行われ、この映画で再び光を当てられた光州・人和学校性暴力事件が集中的に取り上げられた。(※[10月2日の付記]学校名の漢字表記、「仁和学校」と推定してきましたが、韓国サイトによると「人和」のようです。)
与野党議員は時間の大部分をこの問題の追及にあて、関連政府機関に再発防止対策を促した。
とくにこの日は、2005年当時事件を暴露して真相糾明に乗り出したチェ・サムン教師が参考人として出席し、関心を集めた。チェ教師は「いろんな国家機関に陳情書と嘆願書を提出したが、解決されなかった。生徒たちを守れず申し訳ない」と証言し涙ぐんだ。彼はこの事件で罷免されたが後に復職。紆余曲折を経た。
ネット上では実時間検索で「インファ学校暴露教師」という単語が上がってくる等、再びるつぼのように熱くなっいる。
一方政治圏では、いわゆる「るつぼ防止法」制定をめぐり活発な論議が進行している。与野党は久々に声をそろえて、障碍児童性暴行に対する処罰のレベル強化、控訴時効期間延長、社会福祉施設に対する監督強化等の内容を盛り込んだ法案作成にとりかかっている。
小説「るつぼ」も、一昨年の発行から映画が話題になる今年8月の前まで30数万部が売れたヒット小説です。しかし相当数の人々に事件への関心を向けさせる<火種>にはなったものの、実際に現実を大きく変えるには至りませんでした。やはり映画が人々に及ぼすパワーはすごいです。
世論は正義感で熱く盛り上がっていますが、どのような内容の障碍者児童・生徒のための制度等を、いかにして実現していくか、を冷静に追求することが大切、というのがヌルボの(傍観者的・一般論的)見解です。
※関連記事 →<[るつぼ]小説と映画の違い>
→<るつぼ コン・ユ“予想外の結果に私も驚いている”>
※本ブログの関連記事 →<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む①>
→<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む②>
[10月4日の付記]
※韓国語がよめない人でもOK!
この記事では「朝鮮日報」(日本語版)を主なネタ元にしました。1ヵ月経つと、契約者以外は見られなくなるかも・・・。あ、すでに最初の<コン・ユ、作品との縁を語る=『るつぼ』>の記事がそうなってますね。契約といっても、「エンタメコリア取り放題」は月額312~315円なんですけどね。
「朝鮮日報」とともに<3大紙>とされる「東亜日報」と「中央日報」も日本語版をネット上で読むことができます。この「るつぼ」関連の記事も当然あります。私ヌルボがよく利用するのは、高電社の<KOREA LINK:NEWSPAPER>というとても便利な韓国新聞のリンク集から、上記3紙の日本語版に入る、というもの。
直接見るなら、コチラ→ 「東亜日報」
「中央日報」
さらに付記すると、「朝鮮日報」を筆頭に3大紙はどれも保守メディアの代表というべき新聞なので、とくに政治がらみの記事を読む際にはその点を念頭に置く必要があります。
★10月1日以降の情報については
→<つづき>(10月19日の記事)参照
「朝鮮日報」(日本語版)の関連記事の見出しと、その要点を日付順に並べてみます。
○8月22日 コン・ユ、作品との縁を語る=『るつぼ』
コン・ユは「軍隊生活中、指揮官が『コン兵長にぴったりだと思う』と言って下さった本が、孔枝泳さんの小説『るつぼ』だった。好奇心半分で読み始めたが、まるで何かに流されるように、時間を忘れて夢中で読んだ」と語った。「最後の休暇をもらったとき、直接にではなくある人を通じて、孔枝泳さんに、この小説を映画化できないかと尋ねた。そして今、僕はここにいる」と話した。
○9月27日 障碍児に教師が性的暴行、実話映画化の波紋
(映画の素材となった実際の事件のあらましを記しています。)
○9月28日 性的暴行:「むごい事件、世間に伝えるべきだと思った」映画『るつぼ』のファン・ドンヒョク監督
ファン監督は「人々の話題に上ることは予想していたが、こんなに早くから爆発的な反響があるとは考えもしなかった。早くから大きな反響を呼んだ代わりにすぐに冷めてしまい、忘れられはしないかと心配だ」と語った。
また、周囲の人々は監督に「ハッピーエンドでなければヒットは見込めない」と助言したが、ファン監督は「観客をわざと不快にさせようとした」と言い切った。
映画の中で、チョン・ユミ演じるヒロインは「私たちが戦うのは世の中を変えるためではなく、世の中が私たちを変えられないようにするため」と訴えた。ファン監督は原作小説のこの一文が最も印象深く、映画でもそのまま使ったという。
※実は私ヌルボ、本ブログの2009年8月13日の記事<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む②>で次のように書いていたんですよ。
<悪>に果敢に立ち向かう人権運動センターで働く女性ソ・ユジンに、事件担当のチャン巡査部長が「そんな純真な方法で世の中を変えようというのは・・・・」と言うのを遮って、ユジンは決然と言う。
「そんな考えは父が亡くなって捨てました。私は世の中に私が変えられないように闘っているんです」。
このひたむきすぎるほどのひたむきさ。まさに386世代の代表作家らしい孔枝泳自身が投影されている。
・・・つまり同一箇所です。ここらへんはファン監督とヌルボ、まったく同じ感性を持っていましたね。
○9月28日 性的暴行:『るつぼ』事件は進行形、加害者が依然在籍
この事件の露見前、被害生徒が教師らに被害事実を告げたが、学校の要職を独占していた校長等一族経営の権力によって、事件は5年以上にわたり外部に知られることはなかった。
事件初期、対策委は同校に対する調査を経て、性犯罪加害者6人を検察に告発し、学校役員の解任を勧告した。しかし学校法人側が刑が確定するまで理事解任処分を差し止める仮処分申請を行い、裁判所がそれを認めたため、役員解任には至らなかった。また加害者の量刑にも疑問が提起されている。
○9月29日 性的暴行:『るつぼ』鑑賞した大法院長「衝撃的」光州高裁「映画の判決は実際と少し違う」
○9月29日 性的暴行:『るつぼ』事件、警察が全面的に再捜査
韓国警察庁の特別捜査チームは、▲加害教諭による余罪▲市庁・区庁・教育庁など行政当局とインファ学校との癒着関係の有無▲当局による管理監督体制が適切だったか▲インファ学校内部の構造的問題点と不正―を重点的に調べる方針。また同校の生徒間で性的暴行事件があったとの疑いについても捜査を進める。
○9月29日 性的暴行:教科部、インファ学校への制裁案を検討
教科部(日本の文科省に相当)は教育委託の取り消しなどの制裁案を検討している、と28日発表。また性的暴行事件を起こした教員や生徒に対する懲戒処分のレベルを引き上げや、寮を設置している全国41校の特殊学校を対象に、障碍を持つ児童・生徒の生活の実態について点検を行う方針を打ち出した。
○9月29日 障碍生徒への性的暴行、全国で続々発覚江原道江陵市や、慶尚北道の施設でも同様の事件が・・・。
○9月30日 [社説] 障碍者への犯罪、法改正で厳罰を
判決当時の法律の規定上、この程度の判決しか下せなかったのはやむを得なかった。19歳未満の児童や青少年への性犯罪に関する法律が改正されたのはつい昨年のことで、改正によって親告罪の廃止と共に告訴の期限が撤廃され、時効(10年)も被害者が成人となった時点から起算するようになった。ただ、これまで司法が障碍者や児童に対する性犯罪の深刻さや不道徳性について十分に認識せず、淡々と判決を下す傾向が見られたのは事実だ。
※下線部は代表的保守紙「朝鮮日報」らしい書きぶり(?)
以下は韓国語版記事。まもなく日本語版にも載るでしょう。
○9月28日 [萬物相] 映画の力(韓国語)
連載コラム。「キリング・フィールド」や「シルミド(実尾島)」等過去の映画を引き合いに少しでも取り上げる。
・・・が、オザナリ的。100字評で、一読者が「言論が正しい役割を果たしていなかった」、「るつぼ」問題も当時正しく記事化せず、社会的問題にできなかった責任がある」と指摘。はるかに正鵠を射ています。日本でも同様の事例はいくつもありますね。
○9月30日 国会も「るつぼ」烈風…暴露教師「涙の証言」(韓国語)
30日、国会教育科学技術委員会(日本の文教委員会でしょう)で光州教育庁と全羅南道教育庁を対象に実施した国政監査が行われ、この映画で再び光を当てられた光州・人和学校性暴力事件が集中的に取り上げられた。(※[10月2日の付記]学校名の漢字表記、「仁和学校」と推定してきましたが、韓国サイトによると「人和」のようです。)
与野党議員は時間の大部分をこの問題の追及にあて、関連政府機関に再発防止対策を促した。
とくにこの日は、2005年当時事件を暴露して真相糾明に乗り出したチェ・サムン教師が参考人として出席し、関心を集めた。チェ教師は「いろんな国家機関に陳情書と嘆願書を提出したが、解決されなかった。生徒たちを守れず申し訳ない」と証言し涙ぐんだ。彼はこの事件で罷免されたが後に復職。紆余曲折を経た。
ネット上では実時間検索で「インファ学校暴露教師」という単語が上がってくる等、再びるつぼのように熱くなっいる。
一方政治圏では、いわゆる「るつぼ防止法」制定をめぐり活発な論議が進行している。与野党は久々に声をそろえて、障碍児童性暴行に対する処罰のレベル強化、控訴時効期間延長、社会福祉施設に対する監督強化等の内容を盛り込んだ法案作成にとりかかっている。
小説「るつぼ」も、一昨年の発行から映画が話題になる今年8月の前まで30数万部が売れたヒット小説です。しかし相当数の人々に事件への関心を向けさせる<火種>にはなったものの、実際に現実を大きく変えるには至りませんでした。やはり映画が人々に及ぼすパワーはすごいです。
世論は正義感で熱く盛り上がっていますが、どのような内容の障碍者児童・生徒のための制度等を、いかにして実現していくか、を冷静に追求することが大切、というのがヌルボの(傍観者的・一般論的)見解です。
※関連記事 →<[るつぼ]小説と映画の違い>
→<るつぼ コン・ユ“予想外の結果に私も驚いている”>
※本ブログの関連記事 →<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む①>
→<孔枝泳の最新作「るつぼ」を読む②>
[10月4日の付記]
※韓国語がよめない人でもOK!
この記事では「朝鮮日報」(日本語版)を主なネタ元にしました。1ヵ月経つと、契約者以外は見られなくなるかも・・・。あ、すでに最初の<コン・ユ、作品との縁を語る=『るつぼ』>の記事がそうなってますね。契約といっても、「エンタメコリア取り放題」は月額312~315円なんですけどね。
「朝鮮日報」とともに<3大紙>とされる「東亜日報」と「中央日報」も日本語版をネット上で読むことができます。この「るつぼ」関連の記事も当然あります。私ヌルボがよく利用するのは、高電社の<KOREA LINK:NEWSPAPER>というとても便利な韓国新聞のリンク集から、上記3紙の日本語版に入る、というもの。
直接見るなら、コチラ→ 「東亜日報」
「中央日報」
さらに付記すると、「朝鮮日報」を筆頭に3大紙はどれも保守メディアの代表というべき新聞なので、とくに政治がらみの記事を読む際にはその点を念頭に置く必要があります。
★10月1日以降の情報については
→<つづき>(10月19日の記事)参照