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多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ①<進歩系>映画と<保守系>映画

2016-05-22 19:50:31 | 韓国映画(&その他の映画)
 5月9日シネマート新宿の10周年記念・特別先行上映ということで観てきた「暗殺」は、いろんな意味で「注目作」です。
  ※一般公開は7月16日。すでに→公式サイトができています。
 内容をごく簡単に言えば、日本統治期の独立運動をめざす組織による「暗殺」をめぐる物語です。
 なぜ「いろんな意味で」注目なのかというと、チョン・ジヒョンイ・ジョンジェハ・ジョンウといった人気スターが共演していること、もありますけど・・・。
 A.独立運動・抗日闘争等の「歴史的出来事」や主舞台の1930年代京城がどのように描かれているか、といった内容面のこと、
 B.それらの過去をどのように見るか、という(現代の)「歴史認識」の問題
 C.「史実」とフィクションの見きわめ

・・・等々、さまざまな点で興味深いということです。

 今回は、この映画と直接関係なさそうですが、韓国の<進歩系(左派系)>の映画と、<保守系(右派系)>の映画について考えてみます。

 韓国では、内政・外交を問わず諸政策をめぐって進歩系と保守系の両勢力間の対立は厳しいものがあります。日本では、右寄りの人も左よりの人も「自分は左でも右でもない」と言ったり、自分でもそう思っている人が多いのではないでしょうか? 韓国の場合は、総選挙や大統領選挙の結果を見ればわかるように、左右のどちらに属するかがはっきりしていて、中間派はむしろ少ないのが日本とは大きく違うところです。
 メディアも<保守系>の代表ともいうべき「朝鮮日報」と、「中央日報」「東亜日報」のいわゆる「朝・中・東」(조중동.チョチュンドン)の3紙が保守系で、「ハンギョレ」をはじめとして「京郷新聞」とインターネット新聞サイトの「オーマイニュース」のいわゆる「ハンギョンオ」(한경오)が<進歩系>と明確に分かれています。

 <進歩系>と<保守系>の違いは政治面だけではなく、その底には「歴史認識」の対立・葛藤があります。つまり「歴史認識」は日韓間だけの問題ではなく、韓国国内の問題でもあるというわけです。
 この「歴史認識」と関係するのが映画やドラマで、たとえば近現代の描き方は左右で異なったものになるのは当然。日本でもその点は同じで、たとえば最近では百田尚樹原作の映画「永遠の0」などは人によって評価が分かれるところでしょう。(・・・って私ヌルボは観てませんが。)

 韓国映画の<進歩系>と<保守系>の見分け方について。
 ①早い話が、「朝鮮日報」等の保守紙が好意的に評している映画は<保守系>で、「ハンギョレ」等が推している映画は<進歩系>。これはちょっとイイカゲンかな?
 ②<進歩系>の人が多いという映画評論家・記者の評点が(一般のネチズンの評点と比べて)高い映画が<進歩系>。その逆が<保守系>。

 具体的に、その違いが顕著な戦争を描いた作品について見てみましょう。各数値は<NAVER映画>に拠るものです。

 ※青色の数字はネチズン、赤色の数字は記者・評論家の平均評価。茶色の数字はその差で、その数値が小さいものから並べました。

・「小さな池」          6.39 7.56  -1.16
・「JSA」             9.27 9.00  0.27
・「西部戦線1953」       6.39 5.83  0.56
・「トンマッコルへようこそ」  8.93 8.00  0.93
・「高地戦」            8.63 7.34  1.29
・「国際市場で逢いましょう」 9.02 5.81  3.21
・「ノーザン・リミット・ライン 南北海戦」 9.00 4.94 4.06
・「戦火の中へ」         8.23 3.75  4.48


 この8作品の数値を見ると、「高地戦」までの5作品が<進歩系>、「国際市場で逢いましょう」以下の3作品が<保守系>にはっきりと分けられます。
 内容はといえば、「小さな池」は、朝鮮戦争中の老斤里(ノグンニ)事件を映画化した作品。アメリカ軍による韓国民間人の虐殺事件で、この作品については過去記事(→コチラ)で書きました。そして「JSA」~「高地戦」も朝鮮戦争を描いたものですが、何らかの形で韓国と北朝鮮の兵士の間の「人間的な交流」といった場面がある点が共通しています。
 「国際市場~」は戦争映画というわけではありませんが、朝鮮戦争時北朝鮮軍に追われて南に逃げた主人公が後にベトナム戦争に従軍し・・・といった戦争が無批判に描かれ、軍事政権による圧制はまったく抜け落ちている点等に<進歩系>から批判の声が上がりました。「ノーザン・リミット・ライン 南北海戦」は2002年の延坪海戦、すなわちW杯サッカーの最中に起こった南北朝鮮間のすさまじい海戦を描写したもので、南北兵士の「人間的な交流」などが寝言に聞こえるような(?)「現実」の重みはあったとは思います。(私ヌルボが<右>の人間というわけではないですが・・・。)
 ※今韓国で人気のドラマ「太陽の末裔」は韓国軍の海外派兵・国際貢献(!?)を描いた明々白々な<保守系>ドラマ。日本ではいくら安倍政権下でもこういう設定のドラマは作れないでしょう。かつてベトナム戦争の時に韓国軍による民間人虐殺があったベトナムで、このドラマの放映(!)を控えて「現地の記者が韓国軍を広報するドラマが放送されるのは汚辱」という内容の文をフェースブックに投稿し、3日間で9万件近くシェアされるなど、波紋が広がっている」というニュースを「ハンギョレ」が伝えた(→コチラ)のはむべなるかな、といったところ。

 で、戦争映画というわけではないですが「暗殺」の評点はと見ると・・・。
・「暗殺」 8.97 6.57  2.40

 真ん中あたり、と言った方がいいかもしれませんが、ヌルボとしては一応<進歩系>の方に入れておきます。
 それは、上記に数値以外に、「ハンギョレ」に何度も好意的に取り上げられていること、それもとくに「親日」を糾弾する文脈で書かれているという理由からです。

 「暗殺」というからには、この映画では暗殺を企てる者たち(上述のように独立運動組織)とそのターゲットが存在します。物語の主舞台は1933年の京城。つまり日本統治下の朝鮮で、・・・というと日本人としては「反日映画か!?」と思うのではないでしょうか? たしかに悪辣な日本人も登場しますが、それは自明のこと(笑!)で、むしろポイントは主なターゲットが朝鮮人の「親日派」であるということ。
 <NAVER映画>のこの作品に対するネチズンの評点&寸評欄(→コチラ)の最初にも次のような寸評が寄せられていました。

 「日帝強占期の頃日本人より悪辣で惨忍な人間が親日派だったが、そいつらの子孫たちが代々いい暮らしをしているこの世の中が本当に腹立たしい。(以下略)」

 つまり、戦後間もない時期に親日派の清算が進められるかに見えたものの、自分の権力基盤である軍隊や警察に矛先が向けられなるや打ち切ってしまった李承晩と背後のアメリカ。あるいは、日本の陸軍士官学校出の高木正雄中尉こと朴正煕やそれに続く軍事政権と、彼らと結託している財閥等の権力層。こうした勢力の延長線上に今の保守政権がある、ということで「親日派」の問題は現代韓国の政治・社会に直結しているというわけです。

 したがって、この映画のキモは「反日」ではなく「反親日」にある、ということです。

 以下、数回続きます。

 → ②昨年来日本統治期を背景とした作品が増えている
 → ③韓国では、日本統治期の見方が変わりつつある(?)
 → ④判別がむずかしい<史実>と<虚構>の間
 → ⑤韓国でようやく知られ始めた金元鳳(キム・ウォンボン)と義烈団
 → ⑥「日本軍により3469人が殺された事件」というのは何だ?

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2 コメント

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またネットの情報切り貼りと寄せ集めなら (ハンギョレ)
2016-05-24 00:59:55
またネットの情報切り貼りと寄せ集めなら

反親日、親日清算の記事は
昨年夏以来韓国語で多数、
日本語でもあるようなので
ぜひ元記事のリンクをおしえて下さい。
よろしくお願いします。
返信する
とくに元記事はありません (ヌルボ)
2016-05-24 10:04:26
リンク先のハンギョレの記事も含めていろいろ関係記事は見ましたが、とくにこれといった元記事はありません。

なお、私としては記事を寄せ集めるにしても、たとえば2chやヤフーニュースに引用されている韓国紙のニュースであればその日本語版、さらにはモトの韓国語版で確認するようにしています。また単に切り貼りと寄せ集め「だけ」に止めず自分なりの意見・感想・考察等を加えるように努めています。
返信する

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