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あなたの「国家」はどこから?─中澤達哉氏の場合(その6)

2021-11-18 | 新田一郎『中世に国家はあったか』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2021年11月18日(木)12時45分8秒

ウィキペディアの「composite monarchy (or composite state) 」の記事を見ると、冒頭に、

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A composite monarchy (or composite state) is a historical category, introduced by H. G. Koenigsberger in 1975[1][2] and popularised by Sir John H. Elliott,[3] that describes early modern states consisting of several countries under one ruler, sometimes designated as a personal union, who governs his territories as if they were separate kingdoms, in accordance with local traditions and legal structures.

https://en.wikipedia.org/wiki/Composite_monarchy

とあるので、学界的には傍流であったドイツ出身のケーニヒスバーガの提唱した「複合国家(composite state)」論は、最初はあまり注目されなかったけれども、学界の重鎮であるジョン・エリオット卿がケーニヒスバーガの見解を踏まえて「複合王政(composite monarchy)」論を展開したことにより、ケーニヒスバーガも相当評価されるようになった、という感じなのですかね。
ま、上記記事にはウィキペディア特有の注意書きがあるので、全面的に信頼することもできないでしょうが。
さて、中澤論文の続きです。(p41以下)

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 さて,こうした「複合国家」「複合王政」論の延長線上に位置するのが,「礫岩国家」(conglomerate state)論である。「礫岩国家」とは,スウェーデンの歴史家 H・グスタフソンが提唱した概念である。彼によれば,近世国家の君主の支配領域に所属する各地域は,中世以来の伝統的な地域独自の法・権利・行政制度を根拠に,君主に対して地域独特の接合関係をもって礫岩のように集塊していた(20)。Conglomerate とは「礫」を含む堆積岩を意味する地質学用語であり,非均質で可塑性のある集合体ということになる(21)。グスタフソンの貢献は,ケーニヒスバーガおよびエリオットの複合国家・複合王政論がやや静態的であるのに対して,服属地域の「組替」「離脱」のほか,離脱による国家の「解体」を視野に入れた考察を行い,動態的な国家論を提示したことである。礫岩国家論は君主と複数の服属地域(または服属国家)の間に,集塊のあり方に関する複数の複雑な交渉が常に存在することを重視する。それゆえにこそ,礫岩国家的編成は,戦争など国家の存亡にかかわるような危機的な非常事態に明示的に現れ,それぞれの服属地域が異なる集塊(礫の接着=続成)のあり方を可視化してくれるのである。つまり,礫岩国家論は,危機の際に復古であれ連合であれ統合であれ,どういう形態をとるにせよ,常に服属地域(礫)が組替えられたり離脱したり変形することを前提とする。この服属地域(礫)の可変性こそ礫岩国家の特徴である。ちなみに筆者はこれを「礫岩状態」というべきではないかと考えている(22)。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gendaishikenkyu/59/0/59_37/_pdf/-char/ja

最初にこの文章を読んだときは、「スウェーデンの歴史家 H・グスタフソンが提唱した」という「礫岩国家」論が現代歴史学の最先端の議論であって、西欧の学界で大いに注目され、支持されているものと思ったのですが、少し調べてみたら、どうにも妙な感じですね。
そもそも「スウェーデンの歴史家 H・グスタフソン」がいかなる人物かというと、ウィキペディアにはスウェーデン語の短い記事しかなくて、私には読めません。

https://sv.wikipedia.org/wiki/Harald_Gustafsson

そこで、グーグル翻訳の助けを借りると、

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1953年生まれのハラルド・グスタフソンは、スウェーデンの歴史家であり、ルンド大学の歴史学教授です。
彼の研究では、ハラルド・グスタフソンは主に、政治文化、権力と影響力、アイデンティティの概念、国家形成プロセスなどのトピックで、初期の近代(1500~1850)の北欧地域を扱ってきました。とりわけ、彼は北欧の研究で礫岩国家の概念を紹介しました。
ハラルド・グスタフソンには、ビョルン・サンダースとトーブ・サンダースの2人の子供がいます。
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とのことです。
次いで Lunds universitet(ルンド大学)サイトを見ると、

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I am taking part in the project 'Re-thinking Dynastic Rule: Dynasties and State
Formation in the Habsburg and Oldenburg Monarchies, 1500-1700', where my part is to do a study of the Oldenburg dynasty in Denmark 1536-1699.

https://portal.research.lu.se/en/persons/harald-gustafsson

とのことで、研究対象はあくまで北欧に限定されているようですね。
そして、中澤論文の注20に

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(20) Gustafsson, H., “The Conglomarate State: A Perspective on State Formation in Early Modern Europe”,
Scandinavian Journal of History, 23-3,4, pp. 193-98, pp. 209-210.
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とあったので、この論文を探したら、これのようですね。

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03468759850115954

浩瀚な書物かと思ったら、当該雑誌の189~213頁とのことで、分量は貧弱です。
有料記事なので冒頭の一ページしか読んでいませんが、対象は北欧だけのようですね。
うーむ。
正直、なんじゃこりゃ、という感じですね。
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