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犬も歩けばテロリズム

2015-12-17 | 石川健治「7月クーデター説」の論理
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年12月17日(木)10時19分53秒


園田寿氏が2013年12月27日付の「条文はこう読む―特定秘密保護法の『テロリズム』をめぐる誤解」で批判する『世界』851号(2014年1月1日号)の記事、たぶん内田樹のような何にでも口を挟む評論家が書いているのだろうなと予想していたのですが、実際に問題の箇所(149頁)を確認してみたところ、意外にも弁護士の発言でした。
記事タイトルは「秘密保護法は公安警察の隠れ蓑だ」というもので、「2013年11月9日に行われた『明るい警察を実現する全国ネットワーク』主催のシンポジウムを元に構成」したものだそうですが、当該シンポジウムのパネリストは原田宏二(元北海道警察幹部職員、警察の「裏金」告発で有名)、清水勉(弁護士)、青木理(ジャーナリスト)の三人となっています。
そして最初に清水弁護士が「基調報告」を行っており、その中に園田教授が引用する、

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次に「テロリズム」ですが、これは2つの要件からなっています。1つ目は『政治上その他の主義主張に基づき』で、これには「政治上」だけではなく「その他の主義主張」も入りますから、無限に範囲が広がります。2番目の要件は、3類型を規定しています。「国家若しくは他人にこれを強要」するための活動、「社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷」するための活動、「重要な施設その他の物を破壊」するための活動です。つまり、何らかの主義主張に基づいて国や他人に対して―「他人」が1人なのか10人なのかわかりませんが―強要することはテロリズムになってしまいます。一般人の常識からはかけ離れた定義の仕方です。

という発言がありますね。
そして『世界』のこの記事は、タイトルを「座談会 社会を侵食する公安警察」と変更した上で、清水弁護士が編者の一人である岩波の『秘密保護法 何が問題か─検証と批判』(2014年3月28日第1刷発行)という本にそっくりそのまま転載されています。
ただ、奇妙なことに同書において清水弁護士本人が担当している「第3部 秘密保護法逐条解説」を見ると(p291)、

-------
 それにしても、「テロリズム」の定義はわかりにくい。
 政府答弁によれば、以下のように分解できる。
①政治上その他の主義主張に基づき
②国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若
   しくは恐怖を与える目的で、
③ 人を殺傷し
  又は重要な施設その他の物を破壊するための活動
 「政治上の主義主張」だけでなく、「その他の主義主張」でもよい。「その他」には何でも含まれる。無限定である。「国家に強要する」というのは具体的にどのような場面を想定しているのか意味不明である。「他人に強要する」の「他人」の人数には下限がない。ひとりでも「他人」である。「他人に強要する目的」も無限定に広がる概念である。「重要な施設」は具体的にどこまで限定されるのか。「その他の物」は無限定である。
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という具合に、清水弁護士は細かい文言にぶーたらぶーたら文句はつけるものの、全体の構成については「政府答弁」に納得してしまっているのか、シンポジウムの「基調報告」に見られる独自の三類型説は姿を消していますね。
事情はよく分かりませんが、清水弁護士は2013年11月9日のシンポジウムの時点では「又は」「若しくは」を読み誤って独自の三類型説を唱えていたものの、その後、園田教授の指摘を受けてか否かはともかく、自分の誤解に気付いて三類型説を撤回したのですかね。
しかし、その点について誤りであることを周知するような手段も特に取らなかったため、四方田犬彦氏のような周回遅れの人が未だに三類型説を蒸し返している、という事態なのでしょうか。
ま、謎は深まりますが、出発点の誤解を周回遅れの人が反復しているだけのようなので、これ以上の詮索はやめておきます。

>筆綾丸さん
ご紹介、ありがとうございます。
このところ私は青柳いづみこ氏の著作に嵌っていて、青柳氏が言及する相当マニアックな曲や演奏についてYouTube で検索することが多いのですが、意外にヒットしますね。
本当に便利です。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

ナブッコふたたび 2015/12/16(水) 22:40:54
小太郎さん
『テロルと映画』では「特別秘密保護法」となっていて、困ったものです。

https://www.youtube.com/watch?v=T2m_eqBQ10k
初めて知りましたが、シューマンには Davidsbündlertänze(ダヴィッド同盟舞曲集)というのがちゃんとあるのですね。シフの演奏は素晴らしい。

https://www.youtube.com/watch?v=y1fLFPLM2zY
リストの『ドン・ジョヴァンニの回想』はもうひとつの「ラ・チ・ダレム変奏曲」というべきものですね。ショパンのものと聴き比べてみると、ずいぶん違います。

https://www.youtube.com/watch?v=gaXE0v0bJoE
ダンディな指揮者ムーティのイタリア語が少ししかわからないので何ですが、聴衆の要望に応えての再演後、奴隷役のコーラスの女性たちが最後に涙を流しているのをみると、この曲がイタリア人にとって別格の曲だということがよくわかります。こういう曲は、残念ながらというべきか、日本には存在しないですね。
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