第136回配信です。
『「幕府」とは何か』での『自由にしてケシカラン人々の世紀』(講談社選書メチエ、2010)の自己引用部分は、それ自体では全く理解不能。
しかし、『自由にしてケシカラン人々の世紀』で、当該部分の前後を確認すると、かろうじて理解できる。
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[ウォーミングアップ]武家政権の開創期はなぜ二頭体制なのか
兄弟の仲違いといえば、兄と決裂した弟が別の会社を設立するというように、実業界ではよく聞かれる話である。一方、武家政権の誕生に目を向けると、源頼朝と義経、足利尊氏と直義のいずれの場合も、初めは協力体制にあった二人がやがて決裂し、最終的に弟は抹殺される。かくも同じことが繰り返されると、なぜ武家政権の誕生の歴史は、ひとまず二頭体制を志向するのか、という問いが生まれてこよう。一方の後醍醐が「公家一統」を目指し、一元的支配を志向したとすれば、なぜ武家は二元的支配を目指すのだろうか。
こうした問いに対し、すでに半世紀も前の一九六〇年に提示された解答が、歴史家佐藤進一の提唱する、兄尊氏が<主従制的支配権>を掌握し、弟直義が<統治権的支配権>を掌握した、とする理解である。中世史家永原慶二が監修に加わった一九九一年のNHK大河ドラマ『太平記』では、たしか真田広之演じる尊氏が高嶋政伸演じる直義に対し、「ワシは武士の束ねをやる、政治向きのことはお前にまかす」と言う場面があったはずである。よく考え抜かれた台詞であるとは思うが、ただその説明だけでは、なぜそのような分担が必要なのか、まだしっくり来ない向きもあるだろう。そこで次のようなロールプレイングを行ってみよう。
【※無改行】
唐突で申し訳ないが、そこのAさんとBさんで、ちょっと「ワー」「わー」と喧嘩をしていただきたい。……(中略)……さて、AさんもBさんも私の大切な<しもべ>であると仮定すると、主従制というのは一対一のパーソナルな関係なので、私自身が直接Aさん・Bさんの紛争に介入すること、つまり「親裁」することは本質的に避けたい事態である。どっちにも肩入れしたくなるからだ。ならばどうすればよいのか。ここでCさん、あなたの登場だ。裁判機構をつくり、私以外の第三者に紛争解決を委ねればよいのである。
もうおわかりであろう。武士団が私的な戦闘集団に留まっている限りは、主従制のようなシンプルな秩序があれば十分であった。だが、それが政権を担うだけの高次の組織に脱皮するには、主従制(武士の束ね)だけでは不十分であり、それゆえ主従制的支配の頂点に立つ者のほかに、統治権的支配を担うものが必要となってくるのである。【後略】
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ガーシーは近藤成一氏の著書を『鎌倉幕府政治構造の研究』としているが、正しくは『鎌倉時代政治構造の研究』。
近藤成一『鎌倉時代政治構造の研究』(校倉書房、2016)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I027062193
しかし、『自由にしてケシカラン人々の世紀』で、当該部分の前後を確認すると、かろうじて理解できる。
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[ウォーミングアップ]武家政権の開創期はなぜ二頭体制なのか
兄弟の仲違いといえば、兄と決裂した弟が別の会社を設立するというように、実業界ではよく聞かれる話である。一方、武家政権の誕生に目を向けると、源頼朝と義経、足利尊氏と直義のいずれの場合も、初めは協力体制にあった二人がやがて決裂し、最終的に弟は抹殺される。かくも同じことが繰り返されると、なぜ武家政権の誕生の歴史は、ひとまず二頭体制を志向するのか、という問いが生まれてこよう。一方の後醍醐が「公家一統」を目指し、一元的支配を志向したとすれば、なぜ武家は二元的支配を目指すのだろうか。
こうした問いに対し、すでに半世紀も前の一九六〇年に提示された解答が、歴史家佐藤進一の提唱する、兄尊氏が<主従制的支配権>を掌握し、弟直義が<統治権的支配権>を掌握した、とする理解である。中世史家永原慶二が監修に加わった一九九一年のNHK大河ドラマ『太平記』では、たしか真田広之演じる尊氏が高嶋政伸演じる直義に対し、「ワシは武士の束ねをやる、政治向きのことはお前にまかす」と言う場面があったはずである。よく考え抜かれた台詞であるとは思うが、ただその説明だけでは、なぜそのような分担が必要なのか、まだしっくり来ない向きもあるだろう。そこで次のようなロールプレイングを行ってみよう。
【※無改行】
唐突で申し訳ないが、そこのAさんとBさんで、ちょっと「ワー」「わー」と喧嘩をしていただきたい。……(中略)……さて、AさんもBさんも私の大切な<しもべ>であると仮定すると、主従制というのは一対一のパーソナルな関係なので、私自身が直接Aさん・Bさんの紛争に介入すること、つまり「親裁」することは本質的に避けたい事態である。どっちにも肩入れしたくなるからだ。ならばどうすればよいのか。ここでCさん、あなたの登場だ。裁判機構をつくり、私以外の第三者に紛争解決を委ねればよいのである。
もうおわかりであろう。武士団が私的な戦闘集団に留まっている限りは、主従制のようなシンプルな秩序があれば十分であった。だが、それが政権を担うだけの高次の組織に脱皮するには、主従制(武士の束ね)だけでは不十分であり、それゆえ主従制的支配の頂点に立つ者のほかに、統治権的支配を担うものが必要となってくるのである。【後略】
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ガーシーは近藤成一氏の著書を『鎌倉幕府政治構造の研究』としているが、正しくは『鎌倉時代政治構造の研究』。
近藤成一『鎌倉時代政治構造の研究』(校倉書房、2016)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I027062193
亀田俊和氏「佐藤進一の将軍権力二元論再論─東島誠からの批判への応答を中心として─」(立教大学史学会『史苑』84巻1号、2024)
https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/records/2000372
https://twitter.com/IichiroJingu/status/1758315278436634691
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はじめに
第一章 東島誠「「幕府」論のための基礎概念序説」の概要
第二章 足利直義の軍事指揮は、単なる「例外」にすぎないのか
第三章 所務沙汰権や所領安堵権を行使できるのは「第三者」のみなのか
第四章 「分析のツール」とは、具体的にいかなる研究手法なのか
おわりに
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第三章の冒頭(p36)に問題の箇所の検討がなされている。
「「幕府」論のための基礎概念序説」(『立命館文学』660、2019・2)
【設問】東島誠「「幕府」論のための基礎概念序説」を読んで、その内容を五字で要約せよ。〔2019-07-09〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/55ba16ae9afea6e4e705e5b08a304837
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/55ba16ae9afea6e4e705e5b08a304837
「赤橋種子と正親町公蔭 その2」を紹介させていただいたことを、報告いたします。
ご連絡、ありがとうございます。
こちらですね。
「三鱗の残り香」
https://kakuyomu.jp/works/16818093072796912442
赤橋登子は創作の世界でも添え物的な扱いが多かったと思いますが、非常に興味深い女性ですね。
私はいい歳をして『ちびまる子ちゃん』のファンですが、スポンサーの(株)ミツウロコは北条氏とは関係ないのですね。
東島氏の寓話
① AとBがケンカする
② AとBは私のしもべである
③ 第三者Cがケンカを裁定する
において、②を、 Aは私のしもべであるが、Bは私のしもべではない、とすれば、まだマシなのかもしれない。
~より~のほうがマシだ、の構文としては、たとえば、
It's better to die than to be criticized.(批判されるくらいなら死んだほうがマシだ)
てなものがあります。
>「三鱗の残り香」... への返信
>返信ありがとうございます!赤橋登子は、ほとんど記録が残っていないのですが、経歴を調べたときに、すごい波乱万丈な人生を送っている女性だな、思い、興味を持ちました。
8箇所すべて間違っています。
むしろ配信では「相」の字にひっかかっておられましたが、「相論」というのは普通に使われる言葉ではないでしょうか。
ご指摘、ありがとうございます。
修正しておきました。
>むしろ配信では「相」の字にひっかかっておられましたが、
丁寧に聞いていただいているようで、ありがとうございます。