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網野善彦を探して(その4)─犬丸義一「私の戦後と歴史学」

2019-01-16 | 「五〇年問題」と網野善彦・犬丸義一
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2019年 1月16日(水)11時03分17秒

内田力氏は今谷明の「証言」を重視しますが、これは今谷が名古屋大学助教授時代の網野と「よく飲み歩いた」際に「(網野)先生から「自分は伊藤律の指令を下部へ伝達する役」を担っていたと承ったことがある」だけの話ですね。
網野が旧制一高時代の伊藤律について何も知らないように、今谷は網野の共産党活動について実際上何も知らない人です。

内田力「一九五〇年代の網野善彦にとっての政治と歴史」へのプチ疑問(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/30ceced214551c3acfaf6fe576689ac4

他方、網野と同年の生まれで、網野に二年遅れて東大文学部国史学科に入学した犬丸義一は、党活動においても網野と極めて近い位置にいた人物です。
従って、犬丸の記録を丁寧に読み解いて行けば、網野の共産党活動がうっすらと浮かび上がってくる可能性があります。
そこで犬丸の回想録である『年報・日本現代史第8号 戦後日本の民衆意識と知識人』(現代史料出版、2002)所収の「私の戦後と歴史学」を少し紹介してみます。
この文章の全体の構成は、

一 出生と敗戦まで
二 旧制福岡高校時代
三 東大国史学科入学の頃
四 コミンフォルム論評下の学生運動のなかで
五 歴史学研究会大会での民族問題論争
六 卒業論文「満州事変原因論」の執筆
七 東大近代史懇話会助手時代
八 密出国で中華人民共和国へ─「北京機関」
九 岩波講座・日本歴史「現代史研究解説」
十 私の歴史学

となっていて、まずは犬丸の文体紹介を兼ねて冒頭部分を引用してみます。(p249以下)

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  一 出生と敗戦まで

私は、一九二八年四月二二日、「朝鮮ピョンヤン」で生まれた。祖父が一九〇四年後半日露戦争の最中「朝鮮」に渡り、石鹸工場を経営し、父の代に蝋燭工場・靴下工場にも手を延ばし、朝鮮人労働者二~三十人を使うようになっていた。
 小学校三年の時に日中戦争が起こり、軍国主義一色になった。六年の時太平洋戦争が起こった。歴史教育では、天皇の歴代を暗記させらるというものであったが、家にあった講談全集・新興文学全集の一冊が面白く、歴史好きになった。
 戦時措置で中学は四年で卒業となり、受験では、軍関係学校受験を奨励されたが、商工業者だった父や伯父は、軍に疑問で賛成せず、海軍将校と高級船員を兼ねられる高等商船の受験で誤魔化すことにしたが、眼が悪くて試験で落ちたので高校を受験した。この家庭の空気の影響で教練の軍人勅諭の授業で配属将校に「軍人は政治にかかわらず」とあるのに、東条は首相になったのか、と質問して、「大命であるぞ。愚問検察だ」とか「愚問賢察じゃ」と怒鳴り、職員室に座らせられるという事もあった。
 結局、文科には徴兵猶予がないので福岡高校理科に、四五年四月に入学したが、関釜連絡船が空爆で運航出来ず、七月下旬に馬山から千崎への最後の連絡船で「内地」にやっと渡ることができた。
 本籍地の福岡高校では、八幡の三菱化成黒崎工場に勤労動員され、爆弾づくりで「終戦の詔勅」を工場で聞いた。
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「愚問検察」はちょっと変ですが、原文のままです。
さて、終戦後、犬丸は旧制福岡高校で共産主義の洗礼を受けます。

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 当時は、社研と歴研の両方に出ており、共産党に誘われたが、弾圧がこわかったから断った。二・一ストの時は、共産党細胞や社研の指導的部分は学外に出ていたが、禁止後は学内活動に帰り、サークル活動に帰ってきた。彼らの執拗な誘いに、青年共産同盟に誘われ、共産党と違うということで、今の活動のままでよいというのでうんといってしまった。しかし、「われらは若き兵士プロレタリア」という歌には、平和主義ムードの私は違和感を感じて仕方がなく、学外の集会へは出ないことにし、サークル活動だけだった。それに私は北朝鮮・シベリア占領のソ連軍の非行跡が伝えられ、ソ連への「疑問」が出てきた。引揚のおくれである。
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ということで(p251)、文章が若干変ですが、原文のままです。
なお、「われらは若き兵士プロレタリア」の「兵士」には傍点があります。
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