しばらく前から「栄華物語」を読んでいる。平安中期、赤染衛門原作とされる。これを読みながら、自然に同時代人の紫式部の作風や文体と比較してしまう。
赤染衛門と紫式部はほぼ同世代で、生まれ育った身分や境遇もだいたい同じ。ただ赤染衛門の方が、幼児期に実母を亡くし、少女時代にまた姉を失った紫式部よりは、家庭的に安定していたようだ。
結婚生活も赤染衛門は幸せで、温厚な夫と長く連れそい、子供にも恵まれた人生を過ごした。
そのためか、赤染衛門の文章はおっとりしていて読みやすい。登場人物の内面に深く陰翳を探ることはなく、喜怒哀楽の叙述もほどほどにおさめている。が、その都度の情景描写などは紫式部なら書かないような、美意識を逸れるーあけすけとも言えるーリアルを描いている。それが妙に実感に迫り、女性週刊誌を読んでいるような面白みがある。
赤染衛門の人間味のある描写に触れると、文は人なり、と思わず微笑してしまう。
この作品は、屈託なく、優雅な平安貴族社会を覗くことができる。読者に生の不安や人生への思索を促す要素が希薄だからだ。たぶん赤染衛門はそのように意識して筆を緩めたのだろう。彼女もまた紫式部と並ぶ宮廷才女だった。
愛と感謝。