思い出多い小振袖、ついに引退。洗い張りも染め直しもできないと。
さまざまな場面でこれを纏うた。
三味線一人語り「雪女」。
ドレスコードのある音楽会。
いくつかのお祝いの席。
正絹きものは百年の寿命というなら、これはまだ六十半ば。まさか、と。
また衣装ケースにしまいこんでも、ただ朽ちるままに放置してするのは悲しくて、タピストリに。母の家を母の二十歳の振袖で飾るのだから。
着物の妖怪は、小袖の手、というらしい。古い着物の精霊。
ながく飾って楽しむからね、と私は小振袖につぶやいた。ごめんね、もう着てあげられない。
感謝。