雪香の星月夜日記

山口雪香の歌がたり、ささやき、ひとりごと

秋桜の風群なびくまばゆさに言葉つぐみぬひた恋ひしとも

2021-09-11 21:21:00 | Weblog

 秋桜に。

 最近読み終えた本。山﨑豊子さんの「華麗なる一族」
  先月は「不毛地帯」と「白い巨塔」に耽溺し、今月はこれから「沈まぬ太陽」を読むつもり。

 とにかく端正な文体で隅々までわかりやすく、そして近現代の社会経済政治のさまざまな構造、事件、事象が精写され、とても多くのことが学べる。
 情景描写、キャラクター、心理描写、会話、そして人物アクション、表情の掴み方など、素晴らしくリアルで、適格だ。
 長編でも読み始めると次から次の展開が知りたくて引き込まれ、長さを感じさせない面白さ。

 彼女の作品は勧善懲悪ではなくて、徹底した弱肉強食なのだが、その方が真実だし、冷徹に描き尽くされた結末は、たとえ正義や礼節が敗者となっていても、むしろ快い。充実したカタルシスを求める成熟した読者にとって、安易な勧善懲悪は、嘘寒い虚しさがつきまとうからだ。
 そして作者は弱者を蹴散らした悪の強者にも、円満・持続する勝利は与えない。彼よりもいっそう巨大で、争う術のない悪乃至は強者の介入が仄めかされ、あたかも「平家物語」の冒頭、諸行無常の理を描くかのように幕を閉じる。
 銀行合併をめぐり、欲望策謀骨肉相食む「華麗なる一族」はまさにそれだし、「白い巨塔」で財前五郎の野望を砕いたのは、天誅とも言える過労原因の胃癌だった。「不毛地帯」で登場人物たちに裁きを下したのは時間、すなわち加齢による変化と衰え、だった。
 満月は翌日には欠けてゆく。
 望月の欠けたることなき時間は娑婆世界に存在しない。
 それこそがリアリティなのだろう、と私は思う。

 


 山﨑豊子さん、すばらしいお仕事を残された巨匠と尊敬する。
 
 感謝。

 

コメント
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