冬のつめたく澄みとおった夕光(ゆふかげ)が射す。
しばらく前に、貝原易軒のエピソードをふと思い出した。
易軒と、その老母との対話のエピソード。聡明でしられた母堂とか。
「母上、女人はいつまで女人か?」
というようなことを、易軒はたずね、七十を越えた母君は、静かに黙って、眼の前の火鉢の灰をゆっくりと火箸で掻いていた、と。
言葉はなくて。
灰になるまで。
『雪香ものがたり』の冒頭に、「美しく老いる、ということのむつかしさ…」というような記述があったと思う。
つくづくと、この名前にこめられた密度を感じた一年でもあった。
……。易軒の母君は、うつくしい方だったのだろうか。老境にさしかかり、成人した息子がそのようななまめいた質問をしたくなるのならば、たぶん、魅力的な女性だったのだろう。
今年もまもなく終わる。
しみじみと、さまざまなことがあったと思う。