交代勤務の仕事のおしまいに、フロアの入居者さんにあいさつをする。
言葉もよく通じないかもしれない認知症、アルツハイマーの方も、そこにはいらっしゃる。
小半日、ケアを担当したある方、あわただしくても、介助の最中は、微笑みが浮かんだり、目をぱちぱちさせたり、また眉をしかめたり、ぶつぶつ小言を言ったり、ふいに声をたてて笑ったりして、ゆっくりだけれど、いきいきと表情を動かしてくださる。
でも、さよなら、と言いつつ傍らでお辞儀すると、むっと口を噤んで眼を伏せてこちらを見てくれない。
あ、寂しいのかな……と思う。もしも自分のことを、そんなふうに感じてくださっているのなら、申し訳ないことだけれど、わたしにとってはうれしいことでもある。
「今日はこれで帰ります、さよなら、また○曜日には来ますね」
言葉でお返事のできる方ではないのだけれど、口を引き結んでうつむいている、かたい表情はさびしげに見えた。
そんな映像が心に残った日。
守秘義務への配慮あって、日常のお勤め、仕事のことは曖昧にしか詠えない。たぶん、わたしの現実詠の表現力が稚拙なんだろうと思う。
今日のささやきも主観的な一瞬に過ぎないのだけれど。