ギリシャ神話あれこれ:12の功業その11(続々々々)

 
 ギクッ! ゼウスは渋々テティスから手を引くことにする。そして、プロメテウスを解き放つよう、ヘラクレスに命じる。
 で、ヘラクレスはプロメテウスの鎖を解き、例のヒュドラの毒矢で大鷲をで射落とす。

 解放されたプロメテウスは、返礼に、ヘラクレスに予言を与える。
 いずれ巨人族がオリュンポスの神々を攻め寄せるが、そのときお前は、巨人族と戦う英雄となるだろう。また黄金の林檎だが、ヘスペリデスの父であるアトラスに取りに行かせるがいい、アトラスはヘスペリデスの園で天を担いでいるのだが、ごにょごにょ……

 こうして黄金の林檎を手に入れる秘策を得たヘラクレスは、いよいよ、はるか西の果てにあるヘスペリデスの園へと向かう。

 ちなみに、ゼウスはその後テティスを、人間であるペレウスと結婚させる。二人のあいだに産まれたのが、トロイア戦争で活躍する英雄アキレウスなのだが、このトロイア戦争の発端は、二人の結婚の宴の際に起こった、誰が世界一の美女かをめぐる騒動だった。

 さて、ヘラクレスはようやくヘスペリデスの園にたどり着く。そこにはなるほど、天空を背負う巨神アトラスの姿があった(別伝ではアトラスは、ペルセウスの持つメドゥサの首によってすでに石と化している)。
 アトラスはプロメテウスの兄に当たる。ティタン戦争の際、並外れた怪力でオリュンポスの神々をてこずらせた彼は、ティタン神族の敗北以降、その怪力で天を支える役目を負わされている。

 ヘラクレスはプロメテウスの助言どおり、黄金の林檎の話をアトラスに持ち出す。
 ……あー、相談なんだが、林檎の番をするヘスペリデスはあんたの娘だそうだから、あんた、俺の代わりに林檎を取ってきてくれないか。そのあいだ俺が、天を担いでいるから。

 画像は、レイトン「ヘスペリデスの園」。
  フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)

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ギリシャ神話あれこれ:12の功業その11(続々々)

 
 黄金の林檎を求めるヘラクレスの旅。リビアからようやく外海に出、再び太陽神ヘリオスから黄金の杯を借り受けて、海を渡る。そして、カウカソス(コーカサス)へとたどり着く。
 その山頂には、ゼウスに叛いて人間に火をもたらした罪で磔にされた、あのプロメテウスがいた。不死である彼は、生きながらにして毎日、繰り返し大鷲に肝臓をついばまれるという罰を受けていた。
 
 ヘラクレスがカウカソスへとやって来たとき、プロメテウスがゼウスに縛められてから、実に3万年という長い年月が経っていた。この間、ゼウスの怒りは和らぎ、人類に対しても寛容と正義をもって統べるようになった。
 一方プロメテウスのほうも、こうしたゼウスの変化を見て、和解を考えるようになったていた。
 
 実は、予見の力を持つプロメテウスは、ゼウスの将来について、ある秘密を握っていた。彼は、もしゼウスがあのまま人類に対して不正な統治を続けるなら、敢えてゼウスを破滅から救うつもりはなかったのだが、ここに来て、ようやく和解を持ちかけたゼウスに歩み寄る。
 その秘密とは、ネレイデス(=海神ネレウスの娘たち)の一人、海の女神テティスから産まれる子は、その父に勝る運命にある、というもの。ゼウスが昨今、何も知らずに熱心に求愛しているのが、そのテティスだった。

 で、プロメテウスはゼウスに忠告を与える。もしテティスと交われば、父に勝る運命を負って誕生するその子供によって、かつてクロノスがウラノスを追い、同じくゼウスがクロノスを追ったと同じように、ゼウスもまた天上の王座を追われることになるだろう、と。

 画像は、グリーペンケル「プロメテウスを解放するヘラクレス」。
  クリスチアン・グリーペンケル(Christian Griepenkerl, 1839-1912, German)

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ギリシャ神話あれこれ:12の功業その11(続々)

 
 ピュグマイオイは背丈が35センチほどしかない小人族。エチオピアやスキタイ、インドなどの山中に、卵の殻と羽毛を混ぜ合わせた泥で小屋を作って住むという。彼らはコウノトリ(あるいは鶴)と非常に仲が悪い。
 その昔、ピュグマイオイがただの人間の娘を崇拝したため、嫉妬したヘラ神が、娘をコウノトリに変えて彼らを襲わせた(あるいは、ヘラ自身が姿を変えて襲った)。以来、一年の4分の1を、彼らはコウノトリと戦っているという。
 
 で、このときもまたピュグマイオイは、ヘラクレスをヘラと勘違いして襲撃してきたわけ。
 が、さすがにヘラクレスは屁とも思わずに、彼らを何人か捕まえて、毛皮に包み、エウリュステウス王への土産に持ち帰ったのだとか。

 さらにエジプトでは、暴君ブシリスをやっつける。

 この頃エジプトでは、9年間続いた凶作に悩んでいた。で、王が、ちょうどこの地に来ていたキプロスの予言者プラシオスに尋ねたところ、プラシオスは、異邦人を毎年ゼウス神の生贄に捧げれば凶作は免れる、と占う。
 馬鹿なことを言ったもんだ。王は早速、予言者プラシオスを殺してゼウスの祭壇に捧げ、以来、毎年異邦人を殺していた。
 で、ヘラクレスも、うかうかするうちに捕らえられ(……なぜ?)、祭壇に連れられたところを、手枷を断ち切って暴れまくり、王を殺して逃走した。
 ……ちなみにその後、生贄の習慣は廃止になったらしい。

 また、道中、事情はよく分からないが、彼は行く手を妨げようとした、曙の女神エオスの子であるアラビア王エマティオンを殺したという。

 画像は、ドーミエ「プロメテウスあるいはフランスと、ハゲワシ」。
  オノレ・ドーミエ(Honore Daumier, 1808-1879, French)

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八方美人というやつは(続々々)

 
 モリタカくんはジロリと私を睨んだ。彼はその種の言動に容赦しない。普通なら、何か辛辣な言葉でリベンジするところなのだろう。
 が、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らしただけだった。私が以前、彼に虎の絵を描いてやったことを憶えていて、恩義を感じているらしく、私を邪険にしようとしないのだ。
 へー、結構律儀な奴だねえ。

 ようやく彼は、「俺は誰かの機嫌を取るような真似はしないんだ」と言った。

 それだけ言うのにも相当な癪だったらしく、ムッとした様子で私の反応を見た。だが、自分が有利な立場にいると知った私は、引っ込まなかった。なるほどー、彼には彼の美意識があるんじゃん! それをもっと聞きたくなったのだ。
 彼は溜息を吐いて、諦めたように続けた。
「俺は八方美人じゃない。あんたにどう思われてるか知らんけど、俺は自分から、人気取りのために、人に良い顔をしたり声をかけたりして回ったことはないし、思ってもない嬉しがらせを言って愛想振り撒いたこともないよ」

 ほー。私は感心してモリタカくんを見た。彼は私が引き下がらないので、私を追い払うこともできずに、厄介そうに、だから、とか、つまり、とか連発しながら、ブツブツ説明し続けた。

 で、彼の主張をまとめるとこうだ。
 ……俺は、俺が認めた奴しか本気で相手にしない。俺は注目されるのは好きだが、俺の周りに集まってくる奴らを何とも思わない。むしろ軽蔑する。だから、そいつらのために努力する気はないし、そいつらを平気でコケにできる。八方美人というやつは節操がない。俺に良い顔をする奴は、結局、俺の他の奴らにも平気で良い顔をするはずだ。つまりそいつらは、俺の価値を上げているつもりで、実は下げているわけだ。

 ふーん。結構頭いいんだねえ。ただ高慢ちきってわけじゃないんだ。じゃ、彼は本来孤高なのに、注目されたがりの性分のせいで、一匹狼ではいられないわけだ。
 私は、
「矛盾抱えてて大変だね」と感想を述べてから、納得して、その場を後にした。
「ハァ???」
 モリタカくんには、私の言った意味が解せなかったらしい。が、私がようやく引き下がってホッとしたのか、それ以上追求しなかった。彼が再び溜息を吐くのが聞こえた。

 モリタカくんとは高校は別だったので、もう会う機会はなかった。彼がその後どうなったかは知らない。
 が、このとき以来、私は、イヤなヤローだった彼を憎めないままでいる。

 画像は、フラゴナール「ピエロに扮した少年」。
  ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honore Fragonard, 1732-1806, French)

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八方美人というやつは(続々)

 
 彼女たちの手にはそれぞれ可愛いサイン帳が握られている。あー、サイン貰いに来たのね。
 冬場なので教室には暖房が入っていて、教室の入り口の戸はいつも閉まっている。教室にはしょっちゅう下級生の女子たちが訪れる。ので、彼女たちは遠慮して、その戸を自分たちでは開けようとしない。通りかかるクラスの生徒に言付けてもらって、目当ての人物を呼び出すわけ。

 イヤな役回りになっちゃったな。教室を見渡すと、モリタカくんは一人で、教室の隅の机に置かれている、卒業文集のサンプルを見ていた。
 私は彼が今、あんなに隅っこで一人でいることにホッとした。で、彼のところまで行って、廊下で呼んでるよ、と声をかけた。

 彼は一言、「ほっといていいよ」。

 わー、冷淡な奴。寒い廊下で待ってるんだぞ。私は、
「自分で行って断ってきてよ。じゃないと、私が言付けなかったみたいじゃない」と言った。
 彼はフン、と顔を逸らした。
「別に、あんたは悪く思われないよ。もう何度も、何人にも、サインとか制服のボタンとか、卒業式に一緒に撮る写真とか頼まれてるけど、全部無視してるんだから。無視されるって分かってて来るんだよ」

 このとき私は、ファンに騒がれてあんなに喜ぶくせに、ファンを突っ慳貪に扱う彼に、何だか意地悪を言ってみたくなった。もしこっぴどく返されても、もう卒業まで間もないし、残りの学校生活に支障はないだろう、と考えて、この高慢ちきな男にちょっかいを出そうと思ったのだ。
「冷ややっこだねえ」
「何だって?」
「冷たい奴って意味よ」

 To be continued...

 画像は、T.ロビンソン「若い娘の卒業」。
  セオドア・ロビンソン(Theodore Robinson, 1852-1896, American)

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