ギリシャ神話あれこれ:蛇女ラミア

 
 私は赤ちゃんが大好きで、外で赤ちゃんに出会うと、つい、眼をパチクリしたり、相棒の背に隠れてからバアと姿を見せたり、手をグッパ、グッパしたりして、ちょっかいを出してしまう。が、赤ちゃんに触ることはしない。
 世の中には、赤ちゃんが欲しいのに産めず、そのせいで他の赤ちゃんに危害を加えようとする女性もいるという。これは極端な話だが、あり得ない話ではないから怖い。坊がまだ赤ん坊だったときは、私もそういうことを気にしていた。
 だから、赤ちゃんには触らない。ホントはプニッと触りたいんだけれど。

 エジプトの王女ラミアは、その美しさからゼウス神の寵愛を受けるようになる。が、このためヘラ神の怖ろしい嫉妬を買い、子を産むたびにその子を貪り喰うよう仕向けられる。
 悲惨なラミア。我が子を喰らい続けた彼女は、あるとき我に返って自分を呪う。そして、やがて洞窟に籠り、子を奪われた悲しみから気が狂れ、子を持つ母を羨むあまりに、他の子を滅ぼそうとするようになる。

 ラミアは夜の闇に紛れて子を連れ去り、あるいは、美しい口笛を吹いて洞窟へと誘い、生きたまま貪り喰らう。貪欲に、最後の肉片、最後の骨まで残さずに。
 別伝では、夜毎、若い男を誘惑し、それと交わって、寝ている間に生き血を啜る吸血鬼となった、ともいう。

 いつしかラミアは姿までも怪物へと成り下がり、腰から下は大蛇の尾を持ち、全身は蛇の鱗で覆われた蛇女と化す。

 それでもなおヘラの嫉妬は収まらず、子を失った悲しみから逃れられぬよう、眠りの神ヒュプノスに命じて、ラミアから眠りを奪う。……そこまでやるか?
 日夜、子を求めてさまようラミアを、ゼウスもとうとう見かねて、彼女が休めるよう、両眼を取り外せるようにしてやった。
 眼玉を外しているあいだは、ラミアはまるで添い寝する母のように穏やかで、失った子を思い出しているのだという。

 古代ギリシャでは、ラミアが眼を外して休んでいる時間は、子供たちは安全だが、眼を戻してさまよっている時間は、子供たちは危険とされ、親は子供を躾けるのに、「悪いことをするとラミアが来る」と脅したのだとか。

 ……残酷すぎる、この物語。
 
 画像は、A.L.メリット「蛇女ラミア」。
  アンナ・リー・メリット(Anna Lea Merritt, 1844-1930, American)

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