八方美人というやつは(続)

 
 だからモリタカくんが、この質問に、私が聞いたこともない藩士の名を挙げたとき、俄かに彼がクラスで一番マトモに見えたのだ。
 もちろん彼は、人よりも自分を印象づけるためにそう答えただけかも知れない。が、そのために自分にフィットしたマイナーな藩士の半生を調べ上げ、普段からコンパクトにまとめておき、いざとなってスラスラと言ってのけた彼を、私はやけにいじらしく感じたのだった。

 ちなみに私は、この模擬面接の質問に、「尊敬する人なんてまだいません」と答えて落第点をもらった。後で先生に呼び出されて、おい、もう少し斜に構えて答えろよ、簡単にできるだろ? とにかく再度同じ質問をするから、考えとけ、と笑われた。 
 じゃあ何のための質問なんです? ただの形式ですか、それじゃ無駄じゃないですか? 馬鹿みたい、ブー!
 ……追試では、嘘を言うのもイヤなので、譲歩して「手塚治虫」と答えておいた。

 冬休みが明けると、受験に加えて、卒業間近のムードも漂う。下級生の女子たちは、憧れの3年生の男子たちに、卒業記念のサインを貰いにやって来る。

 あるとき私は教室に入るところを、下級生の女子2、3人に呼び止められた。彼女らは恥らいながら、モリタカくんを呼んでください、と言う。

 To be continued...

 画像は、ブラム「日本の侍」。
  ロバート・フレデリック・ブラム(Robert Frederick Blum, 1857-1903, American)

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