ギリシャ神話あれこれ:12の功業その10(続)

 
 ゲリュオンの赤牛たちの番をする、このオルトロスという怪犬は、やはりテュポンとエキドナの子で、冥府の番犬ケルベロスの弟に当たる(だから、オルトロスはゲリュオンの甥ということ。ギリシャ神話では、どんな怪物にも血統を重んじたらしい)。黒い双頭の犬で、尾は蛇、たてがみも無数の蛇の姿をしている。

 さて、エリュテイア島に着いたヘラクレスは、旅の疲れを取るために一眠りしていた。が、彼はよっぽど汗臭かったらしい。彼の匂いを嗅ぎつけた番犬オルトロスが、いきなり、眠っている彼に獰猛に襲いかかってきた。
 びっくりして眼を醒ましたヘラクレス、咄嗟に、ボカン! と棍棒で犬を叩き殺した。騒ぎを聞いて駆けつけてきた牛飼いの巨人をも、同じようにボカン!! と打ちのめしてしまう。

 計画も何もあったもんじゃない。そのまま赤牛の群れを分捕って、海岸へと逃走する。

 が、今度はゲリュオン自身が、牛盗人ヘラクレスを追いかけてくる。
 エリュテイア島には冥王の所有する牛もいて、冥王の牛飼いメノイテスが(後に彼は、冥府でヘラクレスに格闘を挑んでくる)、ヘラクレスを見つけてゲリュオンに密告したともいう。……やはりエリュテイア島は、死者の行く冥府のすぐそばだったらしい。多分、冥府への入り口もその辺にあったんだろう。

 赤牛の群れを追い立てて、黄金の杯にもたもたと乗せているうちに、ゲリュオンはすぐそこまでやって来る。
 が、ヘラクレスは強すぎた。彼は向き直ると、3本の矢を同時に放つ。矢は的をたがわず、ゲリュオンの3つの頭をそれぞれ貫いて、ゲリュオンは敢えない最期を遂げる。
 
 ギリシャ神話では、怪物たちは常に英雄たちに倒される。人里荒らして派手に暮らしている奴も、人里離れてひっそり暮らしている奴も。
 ……それほど悪いことしてたわけじゃないのに、憐れなゲリュオン。

 To be continued...

 画像は、スルバラン「ゲリュオンを倒すヘラクレス」。
  フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran, 1598-1664, Spanish)

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