八方美人というやつは

 
 中学3年生のとき、私はモリタカくんという我儘な男子と同じクラスだった。

 彼は地元の土地持ちの旧家の一人息子らしく、父母祖父母に甘やかされて育った。学校では彼を持ち上げる級友たちに常に取り巻かれていたが、気分屋で、彼らを平気でいたぶった。
 プライドが高くて、スポーツも勉強も人より劣るのが気に入らず、そのために相応の努力も厭わなかった。背が高くて、見ようによってはハンサムで、陸上部で活躍し、体育祭には応援団長にもなった彼は、下級生女子たちにかなりの人気があった。が、失恋以来、女子に騒がれる立場を積極的に喜んではいたが、彼女らを誰一人相手にしようとはしなかった。

 私はこのモリタカくんが嫌いだった。目立ちたがる人、自分で自分を持ち上げたがる人全般を、私は好きにはなれないのだが、彼の場合、それに加えて、誠実さを持ち合わせていないような不遜な印象が、マイナスに作用した。

 体育祭(彼は応援団長だった)が終わり、文化祭(彼は助演男優だった)が終わる頃には、クラスのムードは急に高校受験一色に変わる。私がモリタカくんに初めて好印象を持ったのは、この頃、面接試験の練習のときだった。
 クラスで何人かずつ、みんなの前に座って、担任の先生を面接官に模してその質問に答える。で、「尊敬する人は誰ですか? それはなぜですか?」という先生の質問に、生徒たちはみんながみんな、「父と母です。私を育ててくれたからです」と返答する。

 ……おいおい。両親が自分を育ててくれたことには、感謝はできても、尊敬はできないでしょ。尊敬って、そんな性格のもんじゃないと思うんだけれど。

 To be continued...

 画像は、ノールト「隼と皮紐を持った少年」。
  ヤン・ファン・ノールト(Jan van Noordt, 1620-1676, Dutch)

     Previous / Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )