白と黒の世界

 

 鉄道の日記念切符で東京まで行ってきた。私が東京なんかに行くのは、もちろん美術館目当て。今年は東京の企画展が当たり年なのかな。観たいのばかりやる。
 結局、3つハシゴして、帰りに鎌倉に寄ってブラマンク展を観てきた。

 鎌倉の大谷記念美術館は、緑の木々に囲まれた小高い丘の上の洋館で、以前、デュフィ展を観に来たときに大いに気に入ったところ。展示数は少ないが、疲れ果てていたので、これくらいでちょうどよかった。

 モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck)は野獣派(フォーヴィスム)に括られる。が、他のフォーヴの画家同様、最もヴラマンクらしい絵は、フォーヴを越えた時期に描かれている。
 この円熟期の絵は圧倒もので、私は十年くらい前にヴラマンクの企画展を観て、彼の絵をいっぺんに好きになった。

 父親はバイオリニスト。ヴラマンクもまたバイオリンやコントラバスを弾く。自身のみに立脚し、束縛フリーを好んだという彼は、若くして家を飛び出し、自活。結婚し、自転車競技やバイオリン演奏で生活しながら、絵の伝統や教育を拒絶して、独学で絵を学んだ。
 アンドレ・ドランを通じてフォーヴの運動に加わるが、もともと過去フリー、関係フリーの個人主義に徹する彼は、自身の画風を確立してからは、田舎に引っ込んで独自に描き続けたという。

 野獣派らしい、原色を多用した強烈な色彩は、田園で暮らし田園を描くようになってからは、重厚な、陰鬱で荒涼とした色彩へと変化する。相変わらず原色を用い、筆遣いも荒く大胆なのだが、しかし、野獣派の頃の絵とは、まるで別人のように異なる。
 黒を使うのに、色彩は透明で、なんと言うか、重く澄んでいる。嵐の到来を告げるかのような、光を孕んだ動感あふれる空。空模様は、斑だが流れている。道にも、流れるように轍の跡がある。
 雪が積もっていても、そこはきっと道で、同じく雪の上に轍が流れている。ヴラマンクの絵のなかでも白眉なものは、この、白と黒との独特の雪景色。

 情熱を感じさせるが気取りがなく、造形的だが自然体で、ダイナミックで、エレガント。彼のような絵は、他に類例を知らない。

 ヴラマンクと言えば、パリ留学を果たした若き佐伯祐三に、いきなり、「このアカデミズムめ!」と罵って、佐伯の自尊心をぺしゃんこにしたエピソードで有名。
 でも、何度もこのエピソードに出くわすのに、不思議なことに私には、ヴラマンクが傲慢だったとか横柄だったとかという印象が、一度も残らない。彼はふてぶてしかったかも知れないが、自分に対しては謙虚だったように、いつも思えてしまう。

 画像は、ヴラマンク「赤い野原」。
  モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck, 1876-1958, French)
 他、左から、
  「ラ・クルーズの風景」
  「ル・シャン」
  「雪のマラドルリー」
  「果物籠のある静物」
  「ピンクの帽子をかぶった女」

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