夢の話:人を殺す感覚 その2

 
 私は夢で二度、人を殺したことがある。
 一度目はまだ子供の頃、竹槍で敵兵を刺した。自分が人間を刺したという事実の取り返しのつかなさと、自分が刺した人間の最期の、カッと見開かれた眼の強烈さがトラウマとなって、私は現実世界でも、加害者になることを極端に怖れた。我知らず人を傷つけたという、現実における経験が、こんな夢に投影されたのかも知れない。

 で、相変わらず誰かに追われる夢のなかで、私は、以前にも増して、せっせと逃げ回るようになった。今、追いかけてくる敵から逃げる。置かれている状況から逃げる。やがてぶつかりそうな局面を、予め回避して逃げる。とにかく逃げる、逃げる、逃げる…… 
 いつしか私は大人になり、夢のなかで私を襲う恐怖はもっと現実的な、それ故にもっと怖ろしいものとなって、単純に敵に追われるようなことはなくなった。そもそも誰が敵なのかがクリアでなくなった。だから、私が直接に相手に立ち向かい、攻撃しなければならない場面も、ほとんどなくなった。

 二度目に人を殺した夢を見たのは、学生のときだった。今度は銃で、知った人を殺した。
 この顛末にはかなり、私の個人的な、当時の現実に即した状況があるのだが、まあ、興味深い点もあると思うので、記しておく。

 私は学生の頃、院生のハーゲン氏と親しくしていた。彼は某大学教授ピエーロ氏の主催する研究会(ここではサタン会としておこう)に所属していた。
 ピエーロ氏を権威と仰ぐ、そのサタン会のなかで、とりわけハーゲン氏はピエーロ氏に心酔していた。そして自ら率先してイデオローグの任務を引き受けていた。

 To be continued...

 画像は、バジール「桃色のドレス」。
  フレデリック・バジール(Frederic Bazille, 1841-1870, French)

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