夢の話:人を殺す感覚 その2(続)

 
 ハーゲン氏には独特の女性観があって、自分の妻となるべき女性は、マルクス夫人イェニーがそうであったと言われているように、革命家かつ研究者である夫を献身的に支えることでその愛を貫くべきだという、なので、その女性は革命家でなければならず、しかも決して研究職に就いてはならない(なぜなら研究者が家庭の中心であり、家庭には二つの中心があってはならないから)という、固い信条があった。

 だから彼は、私を一学徒として、ピエーロ氏の陣営に引き入れようとする一方、彼の伴侶として、私に研究者の道を断念させようともしていた。彼としては、私がサタン会に入り、ピエーロ氏の偉大さを、そしてその研究の意義を理解し、さらに自分でその研究に携わるよりは、同じく携わる夫を助けるほうが、研究全体の発展に資することになると納得して、研究者の道を選択しない、そういう都合の好い未来を描いていたわけだ。

 そんなハーゲン氏個人の思惑も手伝って、彼はしきりに、だが深入りさせないよう気をつけて、私にサタン会を推奨した。
 ところで当時は、サタン会のそうした、ピエーロ氏のファミリー的な性格を批判する声も上がっていて、サタン会は内紛状態にあった。批判の先鞭を着けたのは、相棒だった。当時はまだ相棒ではなかったから、彼のことは、ここではサラザンとしておこう。
 サラザンは私を気に入っていて、それをはっきり口に出してもいた。このため、サラザンを眼の敵にしていたピエーロ氏も、却って私をターゲットにした。

 私を手に入れることが、今やハーゲン氏にとって、頭目から課せられた任務ともなった。当然、サラザンは邪魔者だった。が、サラザンを誹謗すれば私が反撥することは、ハーゲン氏にも分かっていた。
 彼自身、私の前でそんな卑屈な態度に出るのは、さすがに気が引けたのかも知れない。確かに彼はフェアではなかった。愛情の名の下に、外敵から守るべく私を囲い、選った餌だけを私に与えようとした。

 To be conitnued...

 画像は、ルノワール「若い男女」。
  ピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir, 1841-1919, French)

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