世界への旅、徒然(続)

 
 現実を知ることは、それ自体、力となる。だが、現実を知るということは、必ずしも実際に体験するということを意味しない。大事なのは体験の意味で、他者に継承されるものも、やはり体験の意味だ。
 現実の表象と論理、分析、評価。科学ならそれで答えが出る。

 けれども、実際に自分の眼で見るということ、自分の五感で感じるということ自体にも、やはり意味はあると思う。
 どこで聞いたか忘れたが、神の存在も、生命の神秘も信じていなかった宇宙飛行士が、宇宙から、暗黒のなかに浮かぶ青い地球を見たとき、理屈抜きに、とにかくこの美しい生命の星を守らなければならない、という、使命のような霊的な意志を感じるのだという。

 自由や個性、知性、真実や美への感動、信頼や希望や愛情、そういう人間の普遍的な性質に関しても、理屈など要らないのではないか。
 私は、世界のそういう性質を見てまわりたい。アマルティア・センの言う“ケイパビリティ(capability)”、人間なら誰もが普遍的に備え、条件さえ与えられれば必ず開花するはずの素質たちに、触れてまわりたい。

 「知性は、それを持たない人には見えないものだ」というのは、確かショーペンハウエルの言葉。
 私には直接的なボランティア活動も、親善大使のような広報活動も、金銭的な寄付すらも、できそうにないけれど、分かる人には分かる形で、何かをしていきたい。

 画像は、ティソ「旅行者」。
  ジェームズ・ティソ(James Tissot, 1836-1902, French)

     Previous
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )