夢の話:人を殺す感覚 その1(続々)

 
 だが多勢に無勢で、次第に私には、突っつく個所や力の入れ具合に注意する余裕がなくなってくる。そして突然、グシャッ、という鈍い感覚が、竹槍を介して私の手に伝わる。土を刺したときとは全然異なる、生きた肉を、骨を刺したと、はっきりと分かる嫌な感覚。

 まさか、という驚愕と、もしかしたら、という焦燥。誰もが、周囲のことなどお構いなしに我勝ちに行動する戦場で、血まみれの人間が一人、凍りついたような形相で私を見据えている。まるで私を睨み殺そうとでもするかのような、あるいは殺人者の証拠の映像を、死にゆく網膜に焼きつけようとでもするかのような、悪鬼のような眼差しで。
 その眼の凄まじさは、トラウマになるには十分だ。その眼の、一体何てことをしてくれたんだ、という最期の訴えが、そのまま、早鐘のような叫びとなって私の内部を打ちまくる。何てこと! 何てこと!

 この瞬間、これまでの世界は瓦解する。自分の生きる世界が、そして自分自身も、もはや決定的に、取り返しがたく変わってしまっているのを感じる。
 時間の不可逆性を、このときほど痛感することはない。ついさっきまで生きていた人間が、自分の手で、今、命を絶たれたのだ。
 もう、もとには戻れない。それは、贖うことも償うこともできない罪だ。罪を犯した人間を変質させ、世界を変質させてしまう、逃れようのない罪だ。

 この変質の結果に耐えかね、絶望でパニックになって、例によって私は眼を醒ました。

 To be continued...

 画像は、マルチェフスキ「死」。
  ヤチェク・マルチェフスキ(Jacek Malczewski, 1854-1929, Polish)

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