浅草の猫爺さん(続)


 翌朝のホテルのご飯は、東京らしからぬ、おにぎりと味噌汁。んー、さすが下町。
 相棒に言わせれば、「高度成長以前て、どこもこんな感じだったよ」という窓外の街並み。ふーん、随分昔の風情なわけね。

 おにぎりをもぐもぐ食べていると、外を、変てこりんな自転車を転がした爺さんが通りかかった。
 この自転車、後ろに、カートのような車輪つきの箱がくっつけてあって、このカートと荷台の上には荷物がいくつも積み重ねてある。前にも横にも、いろんなものがぶら下げてある。まるで生活家財一式が備えてあるような自転車で、しかも工夫がこらしまくってあるらしく、コンパクトで、使いやすそう。

 信号を待っていて、ふとこちらを振り返ったその爺さんと、私は窓ガラス越しに眼が合った。と、その爺さん、いかにも嬉しそうに、自慢げに、自転車の後ろの、カートのような箱をしきりに指差すのだ。
 よく見ると、その箱はペット用のキャリーで、なかには猫が一匹、ちょこなんと座っている。私も相棒も猫を見つけて、ケタケタ笑い出すと、爺さんもますます嬉しそうに、猫を指差す。つまりその自転車は、唯一の家族も住まう爺さんの家というわけだ。

 で、信号が変わると、爺さんは嬉しそうに、行ってしまった。空き缶でも拾いに行くんだろうか。公園に碁でも打ちに行くんだろうか。
 私も、余計なモノは持たないことにするよ、爺さん。

 画像は、浅草寺。

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