ギリシャ神話あれこれ:ヘルメス

 
 泥棒というと、最近、我が家ではルパン三世が人気者。自由人の泥棒というのは面白い。まあ、漫画だけれど。
 で、ギリシャ神話には泥棒の神さままでいるのだから人間臭い。 

 ヘルメス(メルクリウス、マーキュリー)は商業と牧畜の神。旅人、そして泥棒の守護神でもある。神々の伝令神(使いっぱしり)として活躍し、特にゼウスの密命を果たす。
 死者の旅路をも守護し、死者の魂を冥府に導く。彼の持つ伝令杖は、万人を眠らせ、あるいは醒まさせる力を、つまり、万人を死に導く力を持つ。
 また、商業や牧畜による蓄財だけでなく、詐欺や窃盗、賭博、収賄などによる蓄財をも導く。

 ゼウスの末っ子で、生来すばしこく、頭の回転も速い。ペタソスという鉢形のつば広帽子をかぶり、翼の生えたサンダルを履いて、手にはケリュケイオン(カドゥケウス)という黄金の伝令杖を持つ(これは頭にヘルメスの翼が飾られ、柄には二匹の蛇が巻きついている杖で、蛇が一匹だけ絡んでいるアスクレピオスの杖とは別物らしい)。
 母は、アトラスの7人娘プレイアデス(昴)の一人、マイアだと言われる。

 生まれるとまもなく、襁褓から這い出し、アポロンの飼い牛を50頭ほど盗んできた。足跡が見つからないよう、牛にサンダルを履かせて。牛を連れ帰ると、2頭をぺろりと平らげてしまい、残りは洞穴に隠しておく。
 それから、1匹の亀を見つけると、その甲羅を剥がして(肉は食って)、先の牛の腸で7本の弦を張り、竪琴なるものを作り出す。

 さて、牛がいなくなったのに気づいたアポロンは、お手のものの占術をもって盗人を割り出し(ここで、バットス老人とやらがアポロンに告げ口し、後でヘルメスによって石にされている)、襁褓のなかのヘルメスを責め立てる。が、ヘルメスのほうは、僕はまだ赤ちゃんですから、バブー、と犯行を否認。癇癪を起こしたアポロンは、ヘルメスをゼウスの前へと引っ立てる。
 真相は露見するも、ヘルメスの知恵、度胸、機転などなどを大変気に入ったゼウスは、以降、神々の使いとしてヘルメスを重宝するようになった。

 バレたからにはヘルメスも、アポロンに牛を返そうとした。と、アポロン、ヘルメスがポロン、ポロンと、かき鳴らしていた竪琴の音色を耳にすると、牛はお前にやるから、代わりにそれをくれ、と言い出す。商談成立。
 で、今度は葦笛を吹いて遊んでいると、またもやアポロン、牛追いの杖(ケリュケイオン)をやるから、それもくれ、と言い出す。再び商談成立。
 こうして牧畜の権能は、アポロンからヘルメスへと移ったらしい。
 
 ……こういうことがあったのに、ヘルメスとアポロンとは仲が好い。

 マーキュリーが水星の名であるのは、明け方と夕方のごく短時間に行き来する様子が、すばしっこいと思われたためだとか。

 画像は、シメオン・ソロモン「マーキュリー」。
  シメオン・ソロモン(Simeon Solomon, 1840-1905, British)

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