ギリシャ神話あれこれ:ヘファイストス

 
 私は概ね、何の役にも立たない人間なのだけれど、相棒はそのほうがいいと言う。なぜなら、利用されることがないから。……う~む。

 ヘファイストス(ウルカヌス、ヴァルカン)は火と鍛冶の神。
 ゼウスとヘラの嫡男とされる。が、別伝では、ヘラが独りで産んだ子だという。ゼウスが妻の腹を借りずに、優秀なアテナを産んで、大いに可愛がっていることに、面目を失ったと感じて、対抗心を燃やしたわけ(……が、アテナ誕生の際、ゼウスの頭をカチ割った斧を作ったのは、ヘファイストスなんだけど?)。

 とにかく完全で美しい神々のなかで、彼だけは醜く、しかも足が跛だった。これを恥じたヘラは、証拠隠滅とばかりに、生まれたばかりのヘファイストスを、オリュンポス山頂から海へと投げ捨てる。ひど。

 海に落っこちたヘファイストスは、海のニンフ、テティスとエウリュノメに助けられ、9年間、海底の洞穴のなかで育てられる。
 この間、彼は鍛冶の技工を会得し、テティスたちのために真珠や珊瑚のアクセサリーを作ったり、宝石に命を与えて熱帯魚を作ったりする。

 が、裏切られた愛情には復讐しないではおかない、ちょっと始末の悪いところのあるヘファイストス。ある日、自分を捨てた母神ヘラに、見事な黄金の玉座を贈る。これは、座った者を捕縛する罠の仕掛けられたもの。
 で、ヘラは腰掛けると同時に、たちまち身動きが取れなくなる。これには神々一同、大弱り。
 結局、エッヘン! ヘファイストスがヘラを解放し、その褒美にゼウスから、美神アフロディテを妻として頂戴する(別伝では、雷電の褒美として)。で、その後、彼はめでたくオリュンポスに迎えられる。美神の妻付きで。

 魔法と紛う脅威の腕前を持ちながらも、醜く、地味で実直で、しかも親切なヘファイストスは、オリュンポスでは裏方の存在。絶え間ない妻の不貞に悶々と耐えながら、一つ眼巨人キュクロプスの、アルゲス(白光)、ステロペス(電光)、ブロンテス(雷鳴)たちを従えて、煤けた暗い噴火口の穴のなかの工房で、神々のために素晴らしい武具や工芸品を鍛えている。パンドラやその箱、プロメテウスの足鎖も、彼の作品。

 ……利用されるだけの存在、と言えばそれまでなんだけど。ちょっと同情してしまう。

 画像は、ティントレット「ヴェヌスとウルカヌスとクピド」。
  ティントレット(Tintoretto, ca.1518-1594, Italian)

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