五月のミル

 
 最近、コンスタントに映画を観ている。映画は相棒が選ぶ。で、「五月のミル(英題 Milou in May)」を観た(監督:ルイ・マル、出演:ミシェル・ピコリ、ミュウ=ミュウ、他)。これは面白かった。

 当主の老夫人が急死し、その葬儀のため、南仏の田舎屋敷に集まってきたブルジョア一家の騒動が描かれている。
 息子のミルは屋敷に住んでいる。蔦の絡まる白壁の屋敷。広い敷地は緑豊かで、さくらんぼの木があり、養蜂場があり、ぶどう園がある。泉があり、山があり、ザリガニの採れる小川がある。
 老夫人の葬儀に、娘や弟、姪が、それぞれ夫や子供、後妻、ガールフレンドなどを連れて駆けつける。屋敷は急に活気づく。
 が、田舎を離れて都会で暮らす彼らは、屋敷や地所、家具調度品をそっくり売り払い、遺産を分配するよう主張する。一同の話題は、遺産分配と革命のことだけ。パリでは、五月革命の真っ最中。
 
 で、老母の遺体がベッドに安置されているその横で、口論が起こり、家具や食器、銀製品、宝石などの分配が騒々しく始まる。が、革命のせいで、葬儀屋までストライキ。葬儀は延期され、使用人がつるはしで老夫人の墓穴を掘るその同じ庭で、ミルたちは黒ネクタイの喪服でピクニックに興じる。
 弟の息子やトラック運転手、公証人などが加わり、ミルは弟の後妻と、姪のガールフレンドは弟の息子と、姪のほうはトラック運転手と、娘は公証人と、と、なんだかパートナーが入れ替わる。……相棒によれば、フランス人はこのように恋に生きるのだそう。
 
 開放的な雰囲気のなか、夜にはパーティとなり、一同、「革命万歳!」と叫ぶ始末。が、直後、ブルジョアは革命の暴徒に殺される、と聞かされ、一転、彼らはあたふたと、手荷物だけを抱えて森へと逃れる。…… 

 革命に右往左往する一同、死者の前で遺産をめぐって争う一同、暴徒から逃れた森のなかで、ピクニックさながらワインや生ハムの食事を取る一同、忙しい数日のあいだに、連れ立ってやって来た相手とは別の相手と、ロマンスに興ずる一同。
 自分だけこっそりチョコレートを食べたり、小川に毒を垂れ流したりと、自分のことだけしか考えていない工場主夫婦。「精液って何?」、「レズって何?」といちいち尋ねる孫娘。
 ……すべてを視野に入れた眼の冷静な視線で描かれる騒動は、シニカルで滑稽。なのに、南仏の田園がそれらを大らかなものにしている。

 それにしてもフランスの田園て、たった数日間で、人間をリフレッシュするものなんだな。

 画像は、タウロヴ「フランスの村の通り」。
  フリッス・タウロヴ(Frits Thaulow, 1847-1906, Norwegian)
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