ギリシャ神話あれこれ:巨人オリオンとサソリ

 
 オリオン座は私が最初に憶えた星座。
 ギリシャ神話のなかでオリオンは、名前だけは有名だけれども、さて、彼にまつわるエピソードとなると、数は少なく、内容も曖昧なものが多い。
 
 オリオンのエピソードには、よくアルテミスが絡んでいる。

 オリオンは美男の巨人で、優れた狩人。父である海神ポセイドンから授かり、海上を自在に歩く力を持つ。
 ポセイドンの子らというのは大抵そうだが、オリオンもまた、野蛮で、女に手が早い。相手は、アルテミス、曙の女神エオス、キオス島の王女メロペ、アトラスの娘であるプレイアデス7人姉妹、などなど。

 このオリオンの死には、いろいろと諸伝がある。最も有名なものは、神(ヘラともガイアとも言われる)の放った大サソリに刺し殺された、というもの。
 アルテミスが殺したという伝も多い。アルテミスはオリオンが、地上のあらゆる獣を狩り尽くしてみせよう、と豪語したのを憤慨したため、あるいは、彼女に仕えるニンフ、ウピスを犯したため、あるいは、彼女自身に怪しからぬ振るまいに及んだため、あるいは、彼女に円盤投げを挑んだため、あるいは、オリオンとエオスとの仲に嫉妬したために、大サソリを遣わして、あるいは自ら矢を放って、殺したのだとか。……なんで、こんなにバリエーションがあるんだろ。

 とにかくこれが、オリオン座と蠍座。狩人であるオリオンは、足許に犬の星セイリオス(シリウス)を連れている。
 星になってもなおサソリが苦手で、サソリが沈んでから姿を現わし、サソリが上ると慌てて姿を消すという。ちなみに、性懲りもなくプレイアデス(昴)を追いかけてもいる。

 ところで、アルテミスのほとんど唯一の恋物語にも、オリオンが登場する。

 アルテミスは狩猟の女神。で、オリオンに出会うと、彼の狩猟の腕前を気に入り、連れ立って狩りに出かけるうちに、いつしか恋心を抱くようになる。
 これを知った弟アポロンは、ガチョ~ン、大ショック。処女神の姉が人間の男、しかも名うてのプレイボーイに恋! なんとしても二人の仲を裂かねばッ。
 ある夜アポロンは、はるか沖合いの海の上を歩いているオリオンを見つける。彼はオリオンの頭に光を灯すと、何食わぬ顔でアルテミスに、あの遠い小さな光を射抜けるかい、とけしかける。卑劣な奴め。
 で、迂闊にもアルテミスは、自慢の弓を引き絞り、一瞬にして見事に光の的を射止めてしまう。
 いざ海辺に打ち上げられたものが、頭を射抜かれて死んだオリオンだと知り、アルテミスは悲嘆のどん底へと落ち込む。彼女は何も手につかない。不憫に思ったゼウスが、オリオンを天へと上げたとか。
 
 ちなみに、その後、アルテミスがアポロンと仲たがいした、という話は聞かない。

 画像は、ルーカス・クラナッハ(父)「アポロとディアナ」。
  ルーカス・クラナッハ(父)(Lucas Cranach the Elder, 1472-1553, German)

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