夢の話:新しい特殊能力 その3

 
 私の特殊能力は、空を飛ぶにせよ、物質に入り込むにせよ、瞬間的に場所を移るにせよ、追いかけてくる奴らから身を護るためのものだった。が、新たにもう一つ身についた能力は、ちょっとばかり攻撃性があった。
 それは電撃! 

 これは、痴漢を撃退するのに使うスタンガンのような能力で、バビル2世のごとく、奴らの身体のどこかを両手でつかみ、ふんっ! とばかりに踏ん張ると、両手の先から、ビビビビビッ! と電気を発生させ、相手を感電させ気絶させることができる。
 だから、攻撃的と言っても、やっぱり防衛に属する能力なのだとは思う。

 ただし、この能力は私に大いなる余裕を与えてくれた。いったんは追っ手につかまってしまっても、くるりと向き直り、ビビビと倒して、またぞろ逃げることができるからだ。
 で、この電撃能力を会得してからは、逃げる夢というのも、以前ほど怖くはなくなった。

 夢の世界での私の特殊能力は、中学生の頃をもって、これで完成した。以降、私は超人的な能力を、新たに会得していない。
 ちなみにこれらの能力を、今でも私は、夢のなかで自在に使うことができる。それらはまるで特権のように、私に、私だけに、備わっている。
 
 そして、これら特殊能力を会得して以降、私は、毎晩のように追いかけられていた子供時代を懐かしく思うくらいに、めっきり追いかけられなくなった。たまに追いかけられても、もう怖くはなかった。私には逃げ切れる自信がついた。

 子供時代に夜毎、私を悩ませていた、夢の世界での私の恐怖と不安は、次第に、アドベンチュラスなものではなくなっていった。それらはもっと身近な、もっと厄介な、もっと現実味を帯びたものとなった。
 男たちから暴力を受ける恐怖や、国家的反動とそれに対立する諸勢力とに未来を奪われる恐怖、人間の狂気に否応なく煩わされる恐怖、子供たちが真っ直に育たないかも知れない不安、伝えるべきことを伝えきれずに終わるかも知れない不安、大切な人が自分より先に死ぬかも知れない不安、などなど……

 そして、これらの恐怖と不安は、夢という不思議な世界で、現実と紛う真実味を持ち、そのために、ときおり私に啓示を、進むべき道を、与えてくれるようになった。

 To be continued...

 画像は、ミュシャ「明けの明星」。
  アルフォンス・ミュシャ(Alphonse Mucha, 1860-1939, Czech)

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