夢の話:新しい特殊能力 その1

 
 憶えている限り子供の頃から、私は夢のなかで、いつも誰かに追いかけられていた。一方、いつも逃げ切ることができたのだが(たった一度だけ捕まった)、それは私が、夢のなかでは、空を飛ぶという特殊能力を持っていたからだった。

 で、相変わらず追いかけられる夢ばかり見ていたのだが、中学生の頃になると、それがさほど怖いことではなくなった。毎晩、神さまにお祈りはしても、「怖い夢を見せないでください」とは頼まなくなった。
 追われるのがあまり怖くなくなった理由の一つに、空を飛ぶ能力の他にも、新しい特殊能力がいくつか身についた、というのがある。

 まず、岩や木や壁、地面や床、などの物質に、自分を埋め込むことができるようになった。

 この能力は、隠れるのに重宝した。例えば石壁に背中から寄りかかって(頭からは入れないのだ)、そちらに吸い込まれるように念じると、背中から身体が石壁に吸い込まれ、埋まってしまう。石壁のなかに入る、といった感覚。
 石壁のなかは暗い。そこからなんとなくぼんやりと、外界の様子をうかがうことができる。私を追ってきた奴らは私を見失って、きょろきょろとあたりを探している。わーい、いい気味。
 でも息をひそめなくちゃならない。石壁のなかでも、音を立てれば外に聞こえるのだから。透明マントをかぶったハリー・ポッターのような気持ち。

 私より形の大きい、硬い物質のなかなら、大体に入り込むことができる。地面に入り込む場合には、身体を仰向けに横たえて、同様に吸い込まれるよう念じる。
 ただ、物質のなかはとても息苦しい。稀に呼吸がほとんどできない物質すらある。息ができるかどうかは、その物質のなかに入ってみなければ分からない。で、物質のなかに上手く隠れたつもりが、息ができずにパニックになって、大失敗したこともある。

 To be continued...

 画像は、コリント「朝の光」。
  ロヴィス・コリント(Lovis Corinth, 1858-1925, German)

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