ノルウェー民話を描く画家

 

 うちにあるグリーグのCDの表紙には、ノルウェー画家の絵がついている。相棒は、CDのアルバムの表紙の絵を全部憶えている。
 で、キッテルセンの存在も、相棒に教えてもらった。テオドール・キッテルセン(Theodor Kittelsen)は、ノルウェーの自然や民話を描いた画家。トロルの絵は特に有名。

 貧困のなかで育つが、とある人物に絵の才能を見出され、惜し気ない経済援助を受けて、美術学校で絵を学ぶようになる。ミュンヘンにも留学し、ヴェレンショルを初めとするノルウェー画家のサークルに参加。が、援助が途切れてノルウェーに帰国する。
 収入を得るために、ノルウェー民話の挿画を手がけたのをきっかけに、以降、ミュンヘンに戻ってからも、ドイツの新聞や雑誌の挿画のためのデッサン画家として活動する。

 キッテルセンの絵は、線描によるものが多い。線の繊細さ、多様さが描き出す、ノルウェー民話の不思議な、ミステリアスな、奇妙な、ぞっとするような印象は、他に類を見ない。
 私はノルウェー民話を知らないけれども、彼の絵はどれも生き生きとしていて、ユーモラス。自然表現そのものが詩的で、物語性に富んでいる。
 民話を主題とすることで、彼の絵は、ヴェレンショルとは違った、だがやはりノルウェーの伝統的な日常生活に、根差すものとなった。

 ところでキッテルセンは、ノルウェー美術史の流れのなかでは、ヴェレンショルら、民族主義寄りの写実主義に属するらしい。
 が、彼の絵は、自然主義のスタイルではない。そのせいで、彼は決して成功しなかったという。で、彼のようなスタイルは、「新ロマン派(Neo-Romanticism)」と呼ぶみたい。

 このターム、音楽史のものかと思っていたら、同様に美術史にも用いられる。これは「後期ロマン主義(Post-Romanticism)」と同義で、内面性や感情、空想性などを重んじるロマン主義の特徴を受け継ぐ一方、物質文明への嫌悪と表裏をなす象徴主義や、民族アイデンティティの再昂揚による民族主義などを、新たな契機とする。概ね、ヒストリックでロマンティックなものへの懐古や憧憬が特徴。
 ……ロマン主義の様式は、かなり長期のものであることが分かる。

 確かにキッテルセンの絵は、自然と精霊とが同居していた、失われた過去への思慕のようなものが感じられる。だから彼の絵は、グリーグにぴったりなわけかな。

 画像は、キッテルセン「月光のなかのトウモロコシの積み藁」。
  テオドール・キッテルセン(Theodor Kittelsen, 1857-1914, Norwegian)
 他、左から、
  「森のトロル」
  「地をさまよう災い」
  「ノッケン(水の精)」
  「ソリア・モリア城」
  「こだま」

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