気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

憂春 小島ゆかり歌集

2006-02-13 22:23:02 | つれづれ
あかつきのガスに点火すぽ・ぽ・ぽ・ぽと火の子神の子輪になつて踊る

紅椿いちりん落ちてその枝にいちりんほどの空(くう)咲(ひら)きたり

わが知らぬ別の過去われにあるごとし茶房イワンの黒革の椅子

この席に砂糖を少しこぼしたる人が向かひの銀行に入る

点灯のとき玄関の鍵穴に吸はれて闇が出でてゆきたり

(小島ゆかり 憂春 角川書店)

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小島ゆかりの第七歌集。
一首目。ぽ・ぽ・ぽ・ぽのオノマトペがうまく「・」が間に入っているのも効果をあげている。たしかにガスの火を点けるときそんな音がする。
二首目。美しい一首。紅椿という「もの」がなくなったとき、そこには空間が生まれている。
三首目~。茶房イワンという一連から。紅椿の歌とも関連するが、もうひとりの私がいるという感覚、私に別の過去があるという感覚がよくわかる。銀行に用足しに行っただれかを、作者が喫茶店で待っているのだろう。砂糖をすこしこぼした・・という表現が甘くて切ない。
小島ゆかりさんは、優等生で可愛らしく如才ないが、実は違う面を持った人かもしれないと思う。

ミルクティー頼みて後の時の間に夕雲のかたちわづかに変はる
(近藤かすみ)