気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

母さんの歌

2006-02-03 22:18:24 | つれづれ
「母さんの歌」を流してひき売りの灯油の車のナルシシズムよ

越後屋と悪代官が囁けば大名時計はしんねりと鳴る

昨夜より一日老いて湯上がりの鏡に中のわたくしは妻

(今井千草 絵地図 短歌人2月号)

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今井千草さんは、おっとりした奥さまである。ほのぼのとして暖かいが、芯にご自身の目がある。
一首目。「母さんの歌」が借景になっている。わが家の近所では、雪やこんこを流して売りに来る。あれを繰り返して聴くひき売りの人は、もう慣れすぎて意味など考えなくなっているだろう。どのあたりから、慣れるのだろうかとふと思う。
二首目。ワンパターンの時代劇。「大名時計はしんねり」というのがなんともいい。
三首目。毎日おなじことを繰り返しているようで、実は一日ずつ老いてゆく。おそろしい。短歌を作る妻というのは、まことおそろしい。

母さんの歌は家族に見せられぬ 家族の知らぬ母さんの歌
(近藤かすみ)