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小松基地問題研究会

20210218 読書メモ『99%のためのフェミニズム宣言』

2021年02月19日 | 読書
20210218 読書メモ『99%のためのフェミニズム宣言』
人文書院 2400円+税 シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー共著 惠愛由 訳

 表題の本は2019年に出版され、2020年秋に日本語訳され、すでに25カ国語に訳され、世界中で読まれている。
 本書(『宣言』)は体制内的なフェミニズム批判から始めている。それは、企業フェミニズム、リベラルフェミニズム、リーン・イン・フェミニズム(注:リーン・イン=体制の一員)であり、それに対置してウィメンズ・マーチ(2016.2.1全米)、フェミニスト・ストライキ(2018.3.8スペイン)、フェミニスト・ラジカリズム、キック・バック・フェミニズム(注:キック・バック=跳ね返り)、社会主義フェミニズム、マルクス主義フェミニズムなどと表現している。全体的に横文字(カタカナ)が多く、私のような高齢者にはなかなかなじめないが、若い世代には抵抗なく理解が進むのだろう。
 本書(『宣言』)の特徴は、女性差別をはじめとした現代の差別は、資本主義(新自由主義)にその根っこがあり、その土台となる資本主義社会を打倒した後に生まれる新しい社会においてのみ、差別からの解放があるという、極めて剛直な「宣言(マニフェスト)」にある。

リベラル・フェミニズム
 少し引用すると、前者(リベラル・フェミニズム)については、「ビジネス界の荒波をくぐり抜けて勝ち取る成功こそがジェンダーの平等」(10p)、「平等ではなく能力主義―序列の多様化」(28p)、「少数の特権的な人々が同じ階級の男性たちと同等の地位や給料を得られるようにする」(28p)、「多数を解放するよりも、少数を引き上げる」(30p)、「リーン・イン・フェミニズム…女性も競争に参入し、そこで高い生産性を上げ、マーケットや国家に貢献する(新自由主義の正当化)」(158p)、などと、その特徴を認定している。

 しかし2016年米大統領選挙でクリントンが敗北したことで、「リベラル・フェミニズムは崩壊した」と断じている。なぜなら、クリントンはエリート女性が高官に昇進することをフェミニズムとし、圧倒的多数の差別された人々の共感を得られなかったからだ。

フェミニスト・ラジカリズム
 他方では、著者たちは『宣言』のなかで、繰り返しフェミニスト・ラジカリズム、キック・バック・フェミニズム、社会主義フェミニズムについて述べている。

<現代資本主義(新自由主義)認識>
 「新自由主義とは過去40年にわたって地球を席巻してきた、極めて略奪的かつ金融化された資本主義経済の一形態。新自由主義は大気を汚染し、民主的統治を嘲り、生活環境を悪化させた」(13p)、「新自由主義―社会福祉にたいする国の支出を減らす」(54p)、「ジェンダーに基づく暴力は資本主義社会の基本的構造」(56p)、「個人の「自己責任」の名の下に、新自由主義は社会整備のための予算を大幅に削減した―公共サービスを市場化し、そこから直接的利益」(64p)、「資本主義は本物の民主主義や平和と両立しない―私たちの答えはフェミニスト的な国際主義である」(97p)、「現代社会における抑圧の究極的な基盤は資本主義である」(111p)、「資本主義社会は…生死に関わる根本的な問題を「市場」の支配下に委ねてしまう特質」(119p)、「社会的再生産とは何か?―人間を生み、世話し、生かすことには莫大な時間と費用がかかる、…資本主義社会は何らの価値も認めない」(123p)、「社会的生産とは労働力を産み、補填する」(125p)、「新自由主義は世界中の女性たちを大量に賃金労働へと駆り出した。…女性にとって解放でも何でもなかった―強化された搾取と収奪のシステム」(133p)、「女性の抑圧を性的起源に限定することは階級や人種の問題を無効にする」(164p)

 すなわち、資本主義は民主主義と両立せず、出産、育児、家事などの「社会的再生産」を評価せず(愛にもとづく無償労働)、資本主義こそが差別主義の根幹であり、したがって資本主義とのたたかいを組織し、資本主義を打倒して、新しい社会組織を作り出すべきだと主張している。
 とりわけこれまでの40年間の新自由主義こそが福祉を破壊し、公共サービスを市場化(収奪)し、女性を賃金労働に動員し、搾取と収奪のシステムに投げ込んだ。この点で、著者たちには曖昧性はなく、だからこそ全世界の人民は『宣言』を受け入れ、たたかいに立ち上がっているのではないか。

<真のフェミニズム>
 「階級的指向を持ち、急進的かつ変革の力を具えた、これまでとは異なるフェミニズム」(15p)、「国際主義を貫き、帝国主義と戦争には断固として反対する。…反自由主義だけではなく、反資本主義でもある」(37p)、「私たちは…ジェンダーや階級、人種による制限から、また国家主義や消費主義の歪みから解放するためにたたかう―実現するためには、資本主義ではない、新しい社会のかたちを築かなければならない」(79p)、「真に反人種主義・反帝国主義のフェミニズムは、完全に反資本主義でなければならない」(86p)、「他国の爆撃やアパルトヘイト政権の維持といった汚れた仕事をする支配階級の女性たちをフェミニストと呼ぶことはできない」(102p)、「フェミニスト的マニフェスト―マルクスとエンゲルスが残した知見の上に立たねばならない」(110p)、「社会的再生産をめぐる闘争が求めるものは、人間の形成を利潤よりも優先する社会である。…フェミニズムはパンとバラ(注:ゆとりと文化)のための闘争」(131p)、「99%のためのフェミニズムは反資本主義をうたう不断のフェミニズムである」(152p)

 すなわち、リベラル・フェミニズムにたいしてキック・バック(跳ね返り)し、ラジカル・フェミニズム、社会主義フェミニズムこそが真のフェミニズムであると宣言している。その内容は、国際主義、反帝国主義戦争、反人種主義、反侵略、反アパルトヘイトであり、資本主義打倒(「パンとバラ」のために)を主体的行為として対象化している。

<何を為すべきか>
 「フェミニズムは…搾取され、支配され、抑圧されてきたすべての人々のために立ち上がること」(33p)、「資本にたいする大衆の蜂起…フェミニズムたちはその蜂起の最前線にいるだろうか?…(イエス!)」(45p)、「99%のためのフェミニズムはすべてのラジカルな運動に反資本主義の反乱を呼びかける」(104p)、「フェミニストたちのたたかいは…資本主義を解体するたたかいの要である」(104p)、「現実に必要なのは、資本主義というシステムが生み出した生産と再生産の強固な結びつきを打ち破ることであり、利潤の形成と人間の形成の密接な関係や、前者に後者が従属している状況を解体することだろう」(145p)、

 そして、具体的にどのようにたたかうのかを提案している。資本にたいする大衆蜂起の最前線に立つこと、すなわち多数を獲得すると称して、「反資本主義」を隠すことはせず、明確に革命の必要性を提起し、実現のためにたたかうことを宣言している。

<誰と連帯するのか>
 「資本主義を正しい方法で理解…産業における賃労働者が労働者階級のすべてではない」(108p)、「私たちは…左派の反資本主義の流れと連携する必要がある」(105p)、「賃労働の搾取にばかり注目していても、女性を解放することはできない」(144p)、「フェミニスト・ラジカルは、1970年代、戦争や人種主義、資本主義にたいする反植民地主義の運動が最も勢いづいていたころに興った。そうした革命的精神を受け継ぎ…」(146p)、「自身が受ける搾取と支配に抗ってたたかうことで、労働者階級は世界の圧倒的多数を抑圧する社会構造に対抗…人類全体が共有する大義」(149p)、

 したがって、フェミニスト・ラジカルは、(私たちもその一端を担った)1970年代の反戦、反差別、反植民地をかかげる革命的精神を受け継ぎ、労働者階級(左派)と連帯し、資本主義打倒の最前線に立とうと宣言している。その一端を担った日本の革命的左翼こそがラジカル・フェミニズムの戦列に加わるセンスと歴史(7・7自己批判)を擁しており、ラジカル・フェミニストから合流を呼びかけられている主体だと自認すべきである。

大衆性とラジカリズム
 これらの言葉は「左翼的言葉遊び」ではない。2016年トランプ大統領就任の翌月2月1日には、数百万の「ウイメンズ・マーチ」が街を埋め尽くし、2018年の国際女性労働者デーの3月8日、スペインでは「フェミニスト・ストライキ」が呼びかけられ、500万の参加者によって支持されている。そのスローガンは「性差別的抑圧、搾取、暴力から解放された社会の実現」である。

 私は、「反帝反スタ」を掲げる最も左翼的存在であるという自負をもってたたかいぬいてきたが、革命的左翼の思想的・運動的内実は2000年代以前から変質を始めており、「7・7自己批判」(アジア人民との連帯綱領)を投げ出し(具体的には不二越強制連行訴訟の阻害要因)、階級矛盾を賃労働と資本に切り縮め、「労働運動で革命を」などという、労働者人民の実体的苦悩に接近も連帯もしないスローガンを掲げて、たたかう歴史を踏みにじった。また、革命的左翼の内部でも、女性差別事件が頻発し(北陸でもキャップによる女性差別事件=当時の私には、さまざまな事柄が絡み合って、被害者Aさんに真摯に向き合うことができなかったことを心から反省している)、それをうやむやにし、加害者の再生を排除し、真のフェミニズム確立を阻害してきた。

 『宣言』は資本主義下の階級関係を「賃労働と資本」に限定してはならず、社会的再生産(賃労働の担い手の再生産)の領域をも対象化すべきであると、繰り返し忠告している。これらの視点は、私たちにそのまま当てはまる批判的視点であり、私たちの体内に「負の体質」として深く刻まれており、今こそラジカル・フェミニズムから学ばなければならないのではないだろうか。
 『宣言』が掲げる「パンとバラ」こそが、地球上の70億人を超えるすべての人民の目標であり、だからこそ、『宣言』は「99%のため」と特記しているのであるから。

 

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