九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

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掌編小説「憲法九条攻防最前線」  文科系

2006年05月05日 00時04分57秒 | 文芸作品
 
〈すげーもんだ。やっぱりこの人、凄い勉強家だよ。政治だけじゃなく、円・ドル・ユーロ問題とかアメリカの住宅バブルとかの国際経済問題にも強いし。俺が前に勧めた近頃有名な本、「国家の品格」なんかでも、直ぐに読破して反撃してくる。勧めた俺の方が斜め読みで恥ずかしいぐらいなもんだな。ほんと、負けそう〉
 彼、「東条」さんは深夜二時、パソコン画面の長いお返事投稿に目を通しながらそうつぶやいている。昨夜某ブログに掲載された「文化」さんからのものだ。この朝目を通して、これで既に三度も読んだことになる。
 同じ深夜二時、他方「文化」さんも眠気すら感じず、一心にパソコンを打ち続けている。時折思い出したように、新聞切り抜きファイルや、電子辞書の百科事典、同じ卓上にある数冊の新書本などをひっくり返したりもしながら。三ヶ月ほど前から病みつきになっている憲法九条のとあるブログへ、今夜もまた長い投稿を書いているのだ。ブログの表題はそのものずばり「まもるとカエルの九条バトル」。時節柄憲法九条を巡る社会的論議を巻き起こそうという趣旨で、彼と同様定年退職後数年という友人二人に呼びかけられて参加しているものだ。彼はブログビジター用のコメント欄だけでなく、主催者エントリーもしていて投稿欄に書くことも多い。三人とも定年退職で時間だけは手に余るほどあるのだ。彼の立場はもちろん「まもる」である。
 今夜の投稿相手は「東条」さん。ここ二ヶ月ほど彼のライバルであり続けている論客だ。「鷹子」さんとか「見物人」さんとか、新人「カエル」の割り込みも多くて、一日のアクセスは百人ほどと結構なものだ。いろんな反応があってテレビで暇を潰すよりはるかに面白く有益だと考えている。家人はとっくに床につき、傍らのイスに丸まった黒猫の寝息さえ聞こえてくるような四月の真夜中。彼が投稿ボタンを押した時刻は、三時を回っていた。

 翌朝七時、起きて直ぐにパソコンを点けた「東条」さんの目には、またまた長い「文化」さんの投稿が飛び込んできた。この前はこんなこと言ってきたんだったな。えーと「九条改定問題の今の焦点は『イラン戦争』勃発の可能性であってー、アメリカのイラン戦争の重大動機にはそのバブル、ドル問題がある」とー。そして今日の題名はさてさてえーと、「当面のこと全体へのお返事」と、声を上げて読み始めた。
 「細々したやりとりは袋小路に入って、何をやってるやらさっぱりで非生産的ですから、僕が今世界情勢を見るその構図を短く箇条書きにしておきます。一、景気というものの実態がとらえがたくなってきて、『社会・群衆心理的な良悪両様の循環』への対処もお手上
げになっている。経済学者はみな間違ってきた。二、日本のバブル弾けは (中略) 三、逆にアメリカは双子の赤字なのに世界の資金を集めてインフレ気味の好況スパイラル続き。(中略)これが、各国の外貨準備ドル、米国債、円、元など、世界の諸問題の予想される最大震源地となっている(以下略) 」
 困ったな、経済は不得意だし、まして通貨問題なんて。「靖国」、「日韓、日中問題」、「日本精神」とか「東京裁判」とかならすらすら書けるけど。なんかこっちが洗脳されとるような気がしてきたな。今度「教授」にお会いしたときに少し材料を仕入れてこんといかん。
 とその時、部屋に入ってきた者があって彼に声をかける。
 「先生、また『文化』さんのお相手ですか。『九条守れ』や『左』のインターネット対策で遊ばれとるとも知らずに、『左』にもほんとに熱心な奴らけっこう多いもんですね。平和ボケ老人ばっかりかと思っとった。全くシノギにもならんのにご苦労様なこった」
 「馬鹿言え、アキラ。今度の相手は新聞も本もどんどん勉強しとる。近頃まるで、ますます楽しんどるみたいな調子になってきた」
 「先生だってこのごろ、楽しそうじゃないですか。俺ら塾生など、他の者には全く書かせずにさ。毎日毎日、何回も何回も読み返したりしてー」
 「それも馬鹿言え、文章もろくろく書けん奴が。この前誰かが書いたの、ごまかすのに大変だったんだぞ。『文化』さんは経済問題など勉強になる内容も結構多くてな」
 「そー言えば兄貴がこの前何か書いてましたよ。いーんですか」
 「あーあれは『通行人』とか『見物人』とかいう名前でな。『東条』さんで書くことは許しとらんよ。それに、『文化』さん宛てには書くなよとも命令してある」
 にしても、と「東条」さんは考え込むのだった。この「文化」さんとはいつまで続けるのかな。どんどんこっちのが不利という博識、勉強ぶりだし、どっかでこの「愉快犯」の真相がばれたら、凄い気の毒にもなってきたしな。勉強しては連日長い書き込みやって、あれだけ熱心なんだから。そろそろ近い内に切り上げんといかんが、どうしたもんだろう。

それから一週間ほど経った五月三日、例年のように街にカーキ色の街宣車が溢れている。
 「世界の誇りー天皇制はー」、「靖国はー日本人の心の問題ですー」
 夜、街宣車から戻ってパソコンを覗いていたアキラが突然「東条」に向かって叫んだ。
「大変だ先生ー。『文化』さんから、小説みたいなもんが投稿されとる!」
         (以上は総てフィクションであることをお断りしておきます)
コメント (3)
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