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「読書会報告、その1」、三国陽夫著「黒字亡国」その② 文科系

2006年05月19日 21時46分10秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「膨大な貿易収支累積黒字分をドルでアメリカに預けてきた」というこの問題はよく誤解されるように、金持ちの日本が利子の高いアメリカに「自由意思による投資を続けてきた」ということとは全く意味合いが異なる。先回に見た通り円高にならぬように、日銀を大元にした銀行などが輸出企業の在米ドル代金を引き受けて代金を円で立て替えたり、またさらに歴史的に円売りドル買いを重ねるということを繰り返してきたのだが、それでもなお円高圧力がかかり続けるという、そういう状況があり続けたのであった。つまり、「アメリカに置いておかざるを得ない資本」なのである。そしてさて、こういうことの結末を作者はこう表現する。
「金融への負担は1980年代から加速度的に増大し、1990年代半ばから最後の貸し手である日銀の能力の限界を試すような事態になっている。円の切り上げを避け輸出を拡大して黒字を蓄積した結果、厄介な歪みを抱え込んだ。この10年間の歪みは慢性的なデフレとなって日本経済を蝕んできた」(P73)
なお作者は「純債権大国は、物価が上昇しにくい構造である」として、英米の過去を例にとって、以下の3点を指摘している。過剰な設備投資が既に存在すること。長期的な円高傾向から輸入品の価格がどんどん下がってきたこと。資本輸出で流動性の高いベースマネーを失っているので、銀行貸出金を積極的にのばせなくなっていること、この三つである。
こういう純債権大国日本の結末のさらに大詰めはこうである。
「日銀はデフレに対して決して手を拱いて見ていたわけではない。日銀の総資産は1994年3月末の約50兆円から2005年3月末の約150兆円へと3倍に急増しており、名目GDP比で10%から30%に達している。(中略)アメリカのFRBの6%、ヨーロッパ中央銀行の12%に比べてはるかに高い」(P132)
「日銀が紙幣をどんどん刷り、銀行預金が増えているのに、地価も株価も物価も低落が長期化しており、力強い経済成長軌道への復帰はなかった。かって経験したことのない状況である」(P134)
以上を要約してまとめると、こんなことになるのであろう。
輸出企業が儲けた金は総てアメリカにあり、その企業周辺には日銀などが立て替えた金が回っていても、それ以外では設備投資は進まず、雇用は増えず、安い輸入品で国産品は圧迫され、こうして健康な投資が全く進まないので、円が銀行などにじゃぶじゃぶしているだけの、そんなデフレ状況がもう15年も続いてきたということだと。

他方アメリカはと言えば、国を挙げての借金繁栄、いわゆるバブル好景気という状況が続いてきた。

                           (その③に続く)

(皆さんへ。こういう連載の間も別の投稿を入れて下さって一向に構いませんので、よろしく。また、連日連載とは限りません)
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耳寄りな本の内容要約を連載していきます  文科系

2006年05月19日 00時02分56秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「読書会報告、その1」、三国陽夫著「黒字亡国」

友人たちと月1度ほどの読書会を始めて、2回目が終わったところだ。1回目の本は文春新書の「黒字亡国」だったが、偶然この本のことが17日の毎日新聞夕刊2面のほぼ全面を費やして「特集ワールド」として紹介されている。そこで思いついた。これからこの読書会で読んだ本の内容をその都度このブログに紹介していこうと。1冊を1回の投稿でというのではなく、複数回を費やしてやや詳しく要約していきたい。題して「読書会報告」とし、連番号を付していこう。現在このブログで僕が行ってきている毎日新聞記事の紹介とともに、なるべく継続していきたいので、読者諸氏にはよろしく。
ただし、この連載が新聞記事紹介とは違って不人気であれば、中止せざるを得ない。僕も頑張りますので、ブログ参加者の皆さんも頑張って読み続け、できれば感想などを寄せて下さるようお願いします。
またなお、この読書会では対象本の選定を以下のように行っている。参加各人の読書情報を付き合わせて、皆の評価や興味や「現世界史的意義」などが一致したところで次回対象の決定となるというように。
さらになお、今回は2回目以降の予告もしておきたい。「その2」は岩波新書「日本の『構造改革』」(京都大学経済研究所所長・佐和隆光著)。「その3」が集英社新書「日本の外交は国民に何を隠しているか」(愛知大学教授、国連問題と戦後日本外交史専攻・河辺一郎著)。そして「その4」は岩波新書「中国激流ー13億のゆくえ」(神戸外語大助教授、現代中国論専攻・興梠一郎)である。


「読書会報告、その1」、三国陽夫(みくにあきお)著「黒字亡国」
著者の紹介 東大法卒、野村證券、三国事務所設立(権威ある、会社などの格付けをする会社と聞いている)、経済同友会副代表幹事

まず初めに、この著作の紹介として最も短い要約を示そう。この本の帯に掲載されている第2章末尾の4行である。
「輸出で稼いだ黒字を日本がドルでアメリカに預け、日本の利益ではなく、アメリカの利益に貢献している限り、円高圧力もデフレ圧力も弱まることなく、政府・日銀がいくら財政支出や金融緩和というデフレ解消策を講じても、一向に持続性ある効果は現れないのである」
ここに見られるこの表現は、この15年の日本経済の最大問題に真っ向から迫った著作だという自負さえ誇示しているようだ。景気対策の財政支出を行っても、金融緩和に努めても、不況、デフレから逃れられなかった日本。この「失われた10年」の解明の書なのだという意気込みがにおって来る。この「失われた10年」に対して経済学者、経済評論家たちがみな対策論を間違ったというのは既に常識であって、著者もこのことは述べているのだが、それは結局「資本の自由化」というものを見ないで、ケインズ主義的対策など従来からの1国内対象の景気対策にのみ終始したからだと結論しているわけである。これが、この書の中心をなす問題意識なのだと言える。因みに、この「今までの景気対策論の間違いは総て、資本の自由化に目を付けない国内対策だからだ」という論述は、次回に読む「日本の『構造改革』」でも触れられている現代グローバル経済の中心ポイントの一つと言えるだろう。

この著作の第1の主張
日本は80年代後半には既に世界最大の純債権国になるなど、世界1の貿易黒字国であり続けた。その膨大な累積黒字分は円に換えられずに、ドルのままでアメリカに据え置かれてきた。「輸出立国」の「円高恐怖症」がその背景にあったのだ。
累積黒字国とは、自然に任せれば非常な「通貨高(この場合は円高)」にならざるをえず、円高ドル安は対米輸出を妨げる。それを防ぐために日本は、政官財一体となって「黒字分をドルのままでアメリカに据え置く」というやり方を採り続けてきたのである。自動車、家電などの輸出会社がその代金であるドル手形を日本銀行ぐるみの国内銀行を相手にして円に換えて、代金ドル自身は持ち主となった銀行などがそのままアメリカに置いておくということを重ねてきたのだ。つまり輸出代金はアメリカでドルで、日本では円でと二重払いされてきたわけである。そういう歴史的行為の結果、一体何がおこったというのか。こういうことの歴史的結果が「失われた10年」、膨大な失業軍、巨大な累積財政赤字、ゼロ金利という名の財産の目減りなどなどだとしたら、今後にどういう打開策があると著者は言うのだろう。
                         (以下、次回に続く)
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