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(蛍ブクロ/東慶寺)
暗さも怖かった。
畑に近づくと周りには灯りが何にもない。叔父さんは畦道をズンズンと前に進む。暗さよりも怖い蛇が、今にも足に噛み付いて来るような気がして自分の心臓の音が体中に響いている。叔父さんに手を強く握って欲しい。恐怖心で言葉も出ない。どうして暗くなって畑に行ったのか覚えていない。多分、夕食の材料を畑に採りに行ったのだろう。
やはり梅雨時だった。小雨もショボショボと降っていた日の幼い時の記憶だ。
突然立ち止まった叔父さんは、雑草が生い茂る藪の中に足を踏み入れ、何やら長い棒のような草を一本手折ってきた。草の先には袋が三つ付いている。それを、怖さで言葉も無い自分に持たせると、両手を空に高々と上げた。見上げると蛍が無数に二人の周りで飛んでいた。初めて気が付いた。灯りは星の瞬きよりも大きい。やがて叔父さんの両手には一匹、二匹、三匹と留まり始めた。叔父さんは手に留まった蛍をソッと掴み、草の先の袋の中にユックリと入れた。
「提灯だ、これで明るくなるぞ!」周囲が途端にパッと明るくなった。怖さもどこかに飛んで行ってしまったことは言うまでもない。
オジサンは魔法使いだと思った。
東慶寺の境内には今、蛍ブクロが伸ばした花茎の節ごとに白や淡い紅紫色の釣り鐘形の花が数輪ずつ俯いて咲いている。