季節外れの低気圧の通過により強風が吹き、集中的に雨が降った。
早朝、窓から海を眺めると一面に白波が立っている。押し寄せる波が波消しブロックにぶつかり大きな飛沫を上げている。風に煽られた飛沫が、この六階の部屋まで運ばれ、窓を打ちつけ時折大きな音を立てる。
やがて雨は上がり、強い風だけが残った。こんな日は、いつもと違った何かが撮れるのではと期待しカメラを手にして外に出た。
風に向かったら身体を前に屈めないと足が前に出し難い。浜にも、浜通りにも人影は無い。猫だけが風を避け日溜りで欠伸をしている。
港内にも波が立ち、ブイだけが大きく揺れている。
犬を散歩させている知人の男性に出会った。彼は犬に引っ張られるように風に向かってユックリ楽しそうに歩いている。右手にリードを持ち、左手で帽子を押さえている。
後で聞くと鎌倉では材木座海岸から北へ竜巻が走った。駐車していた軽トラックが横倒しになった。また五所神社では大きな公孫樹が途中で折れ、それが銅板葺の本堂の屋根を貫通した。家屋の被害も240数軒に上ったらしい。
先ほどの犬との散歩帰りの男性に又出会った。彼は先ほどとは違って渋い顔をしている。彼の雰囲気が何かが違うと瞬間に思ったが、彼は「飛ばされちゃったよ---」と、頭に手をやった。そこには先ほどまで確かにあった帽子が、鬘(かつら)と共に無くなっていた。そこは妙に青白くモヤシを見る思いだった。
可笑しかったが笑うに笑えなかった。カメラを向けたが気の毒でシャッターは押さなかった。
振り返ると彼は心なしか肩を落とし、背を曲げて、ずっと俯いたまま歩いていた。
犬だけが、どこ吹く風って感じの足取りだった。
日記のような句になってしまいました。本人はさぞかし悔しかったでしょうが、傍で見ているほうは面白いですね。大きな不幸は笑えませんが、こうした小さな不幸は結構おかしいですね。落語や漫才なんかもこんなところにネタがあるのかもしれません。これからも人の小さな不幸を見つけて送ってください。