海側生活

「今さら」ではなく「今から」

冬が去ろうとする頃  

2012年02月16日 | 鎌倉散策

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「冬萌え」という素敵な言葉に出会った。

冬の植物は来る春まで眠りに付いたかのようで、目に鮮やかな花や草木は乏しく、枯れきった植物も多い冬。新緑や紅葉の季節と比べ目を向ける人は少ないが、見方を変えれば木々の葉が落ちた庭はグッと奥行きが増し、色合いは無いものの、まるで水墨画のような世界を見る事がある。

季節が変わる度に惹かれて足を運ぶ瑞泉寺に、一切の無駄を省き、岩と水だけで作られたと言う簡素な庭がある。
庭の事は良くは分からないが、鎌倉石(凝灰岩)の岩盤を削って池を配し、他の日本庭園によく見られる庭石や灯篭も無い。引き算の庭とも呼ばれている。

また花の寺とも呼ばれるその境内で、芽吹きを撮りたくて、今は枯れ木のイロハモミジの冬芽に目を凝らすと、すでにピチピチと尖っている。命の愛おしさを感じる。
ふと後ろに人の気配を感じた。振り返ると妙齢の女性が同じ冬芽を観ていたのだろうか、眼が合った。短い挨拶を交わす。立つ位置を譲った。手にはいかにも高価なカメラがある。二、三度シャッターを押した後
「冬萌えって言うのですよね」と女性は言う。
「----」
「枯れ色の鎧を纏い、その中で静かに力を蓄えながら春の出番を待っているのですね」
言葉の意味を知らなかった自分は多分怪訝な表情をしたのだろう、女性は自分の眼を覗き込むように低い声で、誰に語るでもない感じで優しく話した。

一見すると動きに乏しい冬でも、地面の下や木々では春に備え変化が起きている。
今思えば、あの時女性は「--春の出番を待っている」と自身の想いを話したのかも知れない。
植物のみならず、人にも当然「冬萌え」はある。

晩冬は静から動へ、一年のうちでも最もダイナミックに変化が起きる季節だ。


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